スペシャル・トレンドレポート

どうしていま「イタリア」なのか?(松崎 美子氏)

2018年10月3日

イタリアが揺れている。2019年度予算案を巡り、イタリアの株式・国債・ユーロ全てが先週から急落しているからだ。

果たして日本ではどれくらい報道がなされているかわからないが、今回のコラムでは、イタリアが直面している問題について書いてみたいと思う。

イタリア財政事情

イタリアの債務残高はギリシャの次に高い。これは欧州委員会・欧州統計局(Eurostat)が作成した公的債務残高対GDP比のチャートで、グレーの棒グラフがイタリアである。債務残高対GDP比はギリシャの次に高く、2017年度は131.8%となっている。

チャート: 欧州委員会・欧州統計局ホームページ

欧州委員会はイタリアの債務削減は急務と位置づけており、前政権(レンツィ首相)は2020年度に財政均衡を約束した。しかし、今年3月の総選挙で誕生した5つ星運動と同盟との連立政権は、「政治>EU財政規律」の考えを曲げなかったため、イタリア国債利回りがどんどん上昇してきたのである。

データ: イタリア中銀ホームページ+数々の報道

予算案を巡る制度の変更(2013年)

そもそもどうして予算案内容について、ここまでマーケットが注目しているのかについては、2013年に実施された予算案を巡る制度が変更されたからに他ならない。

ヨーロッパでは、ギリシャから端を発した債務危機を繰り返さないためにも、ユーロ制度の抜本改革の一環として、統合の深化を通じた危機の克服を目指すことで合意した。この実現のため、加盟各国(英国とチェコを除く)は国家主権の一部を放棄しEUに移譲することを約束し、EU統合強化へ向けた「銀行・財政・経済・政治同盟からなる4本の柱」が設定された。

この中で「財政同盟」は2013年3月に正式発効し、同年5月13日には「ユーロ加盟各国の予算案や財政計画に対し、欧州委員会と加盟各国同士が監視・調整する体制」が認められるようになった。これ以降、ユーロ加盟各国は自国の議会に提出する予算案を欧州委員会にも提出し、承認を求めることが義務付けられたのである。

欧州委員会への予算案提出期限は、以下の通りとなっている。

http://www.consilium.europa.eu/uedocs/cms_data/docs/pressdata/en/ecofin/137077.pdf

財政赤字対GDP比を巡る動き

今回のイタリア予算案を巡る動きとしては、欧州委員会が定めた財政規律を重視し歳出減を主張するトリア経済財務相と、選挙公約に基づき歳出拡大を容認するディマイオ副首相(5つ星運動)とサルビーニ副首相(同盟)の対立となった。そもそも5つ星運動も同盟もともに、歳出拡大路線を支持する政党同志であるため、トリア経済相が孤立した形になるのは、ある程度予想されていた。

イタリア政府関係者は夏休み返上で協議したが、7月末あたりから歳出増懸念を先取りする形でイタリア国債が売られ始め、イタリア2年物国債の利回りは1%台へ急上昇(国債価格は下落)、同様に10年物国債利回りは久しぶりに3%台へ突入したのもこの時期である。

トリア経済相は、GDP比131.8%まで膨らんだ公的債務の削減に精力的であり、何度も辞任のイエローカードを切ったが、連立政権は「辞めたければ辞めれば良い。後任はいくらでもいる。」と全く譲歩する姿勢を見せない。

予算案概要発表日の9月27日、イタリア議会は夜11時まで協議し、最終的に「財政赤字対GDP比」は2.4%となると発表した。トリア経済(財務)相と連立政権との間で折り合いがつかず、最終的に連立政権の思うままとなったのであろう。

もう一度、2019年度予算案における財政赤字対GDP比について復習すると、

トリア経済相 → 1.6%、ただし1.9%まではギリギリ容認
連立政権 →  2.4%
本来あるべき数字 → 0.8% → 2020年度に財政均衡達成

基本的なことであるが、EUの財政赤字対GDP比の上限は3%である。そのため、今回の2.4%という数字は上限より低く、EU規則を破っているわけではない。しかし、EUは債務残高が高いギリシャやイタリアに対し、一日も早く財政均衡を目指し債務額の縮小を促しており、イタリアに対しては「2018年 1.6% → 2019年 0.8% → 2020年 財政均衡」という目標を課した。しかし、連立政権はそんなことはおかまいなしで、2.4%というとんでもない数字を平然と発表。これを受けて、イタリアでは株価・国債価格・ユーロがトリプル安へ。

今後注意すべき点

個人的に一番気になるのが、10月末に予定されている格付け大手:ムーディーズとS&Pのイタリア格付け発表である。イタリアの格付けは3社ともに「BBB/Baa2」であり、2ノッチの格下げが起きれば、投機的扱い(ジャンク債)となる

ここからのユーロ

今年5月からのユーロ/ドルの動きを見ると、8月の数日間以外はずっと1.14-1.18ユーロ台のレンジ内での動きとなっている。今後もレジスタンスとしては、1.1810ユーロ台(緑のハイライト上限)を想定している。

もし、イタリア財政問題が、債務残高が高いギリシャやポルトガルに飛び火し、ユーロ圏全体の問題となった場合、ユーロの急落は免れないだろう。そうはいっても、各国の10年物国債利回りを見ると、ギリシャで4%台、ポルトガルでは1.9%台となっており、2009年からのギリシャ債務危機時と比較するとほとんど危機感が沸かないレベルである。

しかし、イタリアの場合、経済規模はギリシャの約10倍、債務残高は2兆3000億ユーロに達しており、万が一イタリア危機が本格化しても、救済する術がないと言われている。ちなみにEU最大の経済大国であるドイツのGDPは、3兆1450億ユーロであることを考えると、イタリア債務の大きさがよくわかる。

今後もイタリア国債の売りが続くようであれば、ユーロは頭が重い展開を強いられると予想する。

チャート:筆者作成

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2018年10月03日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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