1)「動かぬ円」、米中間選挙にむけて「米ドル/円」のvolatilityは上がるのか?
早いもので今年も9月に入り、来月はいよいよ最後の四半期を迎えることになる。
そして為替マーケットでは方向性よりもマーケットのvolatilityが話題になっている。
その中心にいるのが「米ドル/円」
2018年スタートの「米ドル/円」はマーケットの強気なコンセンサスとは裏腹に、112円ミドルから8円ほどの急落を演じ、104円ミドルまで下落。
ところがその後、ドルが持ち直してからは、「米ドル/円」は下落幅を取戻し、年初水準の110~112円を中心とした膠着相場が長期にわたって続いている。
銀行のトレーダーはマーケットが動かなければ、option取引を増やすので、「動かない」という大相場がおとずれていることになるが、方向性を取りに行く個人投資家にとって動かないマーケットでは収益を上げるのは難しくなっている。
(逆に損失する可能性も低下するが、個人投資家には、なかなか難しいようだ。)
日経新聞の清水編集委員もコラムで「米ドル/円」の低volatilityについて解説している。
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「動かぬ円」という異変 対米欧通貨で変動過去最小か ?
この調子なら過去最小記録になるのではないか――。9月も後半となり、マーケット参加者の視野に今年最後の四半期(10~12月期)が入ってきているが、日銀や為替市場関係者の間で「動かない円相場」という異変への関心が高まっている。
年初来のドル・円相場の変動幅(円の高値と安値の差)は9円を下回る低水準。年間の変動幅が、1973年(為替が変動相場制に移った年)以降で最小となる可能性が徐々に意識され始めた。実は年初来の変動幅はユーロ・円相場もかなり小幅。同じ年に対ドル、対ユーロともに円の変動が過去最少になるなら、初めての出来事になる。
出所 日経新聞
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「米ドル/円」の変動率が低下するに伴って「ユーロ/円」の値幅も縮小している。
一方、政治的なスケジュールを確認すると、自民党総裁選の投開票が9月20日(安倍首相の3選が確定的)。その翌日の21日にはFFR(日米通商協議)の第2回会合がおこなわれるようで、為替も話題となる可能性がある。
米国との通商協議ではメキシコや韓国などが通貨安誘導を控える「為替条項」などを受けざるを得ない状況となっている中、日本だけドル高継続というのは考えにくい。
加えて、9月26日には日米首脳会談を予定し、日程調整されている。この首脳会談でトランプ大統領から為替条項をのまされる公算は低いと考えているが、メキシコや韓国の状況から考えれば、「米ドル/円」が続伸する可能性は低いと考えている。
また米国サイドの状況を考えると、11月6日には中間選挙を控えている。
これまでのアノマリーでは選挙前に株価が下落し、選挙後上昇する傾向があり、米国の大手銀行も米株の急反落に警鐘を鳴らしている。
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米国株の下落に備えよ-ゴールドマンとシティが警戒促す
米国株に対する投資家の楽観が強まる時は、ウォール街からの警告も高まる。
投資家の楽観が年初来最大の下落局面を示唆する水準に達したことから、シティグループは新たな相場下落が待ち構えている可能性があると警戒を促した。一方、ゴールドマン・サックスの強気・弱気相場指数は、バリュエーション(株価評価)の高さや労働市場の引き締まりを追い風に、警戒水準に達した。
出所Bloomberg
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米株がアノマリー通り、中間選挙に向けて反落するのであれば、膠着している「米ドル/円」相場のvolatilityが戻ってきて「米ドル/円」も急反落することになる。
米中間選挙に向けて、「米ドル/円」の反落に警戒している。
2)資金は新興国から欧州へ、「ユーロ/米ドル」は1.2100ドルへ
トルコ・リラ、ブラジル・レアル、南アフリカ・ランド、アルゼンチン・ペソなどの下落がマーケットで話題となり、新興国通貨の下落トレンドは継続している。
これは米国の度重なる利上げをきっかけに、新興国から米国へと資金が流れていることが要因となっている。
この「米ドル」への回帰で「米ドル一強」状態が長らく続いていた。
ただここに来て米国債のショートがかなり積み上がっていることから、米10年債金利の上昇もピークに近いと想定され、それに伴ってドルインデックスも反落の兆候を示している。
添付図は「ドルインデックス」の日足。
8月15日に96.98の高値をつけてから反落に転じている。

チャート:筆者作成
ドルの反落に関しては、ガンドラック氏も警鐘を鳴らしている。
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ガンドラック氏:ドル下落の公算、年末は恐らく今より安いと予想
ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高投資責任者(CIO)によれば、ドルは今後値下がりする公算が大きい。そうなれば、新興国の株式など米国以外の株式には朗報かもしれない。
ガンドラック氏は11日、自身が運用するトータル・リターン・ボンド・ファンド向けウェブキャストで、「まずは下に向かう新たな動きを見ることなく、新高値をドルが付けにいくとは思わない」とし、「ドルは恐らく年末時点で現在より安いだろう」と続けた。
トランプ大統領がドル安を望んでいるのも一因で、ドル高を見込む向きは読み間違える結果に終わるだろうとも指摘。景気先行指数はリセッション(景気後退)が迫る兆候を示してはいないが、新興市場の状況が悪化すれば、世界市場は幅広い問題に見舞われる可能性があるとも話した。
ドル以外についてガンドラック氏は、以下の内容も指摘した。
米10年債利回りが2.25%まで低下するとは予想しないが、投機的なショートがとてつもない規模になっているため、大規模ショートスクイーズが起きる可能性もある。
現在の市場で購入するのに最適な債権は銀行ローンと民間発行の住宅ローン担保証券(MBS)。
ポートフォリオに商品を加えるのに良い時期の可能性-商品は通常、景気サイクル終盤にパフォーマンスが良い。
S&P500種株価指数は年初より低い水準で年末を迎える可能性-マイナスとなっている他の株価指数との乖離(かいり)が縮む。
出所 Bloomberg
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ドルインデックスの転換日が8月15日であるため、同様にユーロドルも8月15日同日に1.1301ドルの安値をつけて反発に転じている。
添付図は「ユーロ/米ドル」の日足。

チャート:筆者作成
「ユーロ/米ドル」はトルコ・リラが急落するに呼応して、トルコのプロキシー(代替)として1.1500ドルの節目を割り込んで急落した。
しかし9月13日にトルコ中銀が市場の期待を上回る6.25%の利上げを決行したことから、トルコショックは一時沈静化。
結果、ユーロドルは1.16ドル台を回復している。
前述のように米国債のshortが積み上がっている状態から、米10年債利回りは調整で反落する公算も高まっていることも後押しし、「ユーロ/米ドル」のダウンサイドリスクは限定的。
Globalな資金は新興国から米国にという流れが主流で、米ドル一人勝ちの様相を呈していたが、その資金の流れが米国より欧州へという流れが顕著になっている。
新興国から資金流出し欧州に流れるということは、新興国通貨が売られ欧州通貨が買われることになり、先月から「ユーロ/豪ドル」・「英ポンド/豪ドル」が上昇している。
また一方的に米ドルに流れていた資金の一部も欧州に流れだしており、「ドル/スイスフラン」や「英ポンド/米ドル」、そして「ユーロ/米ドル」も底堅い展開になっている。
「ユーロ/米ドル」は1.2555ドルから1.1301ドルの38.2%が1.1780ドルに位置しており、レジスタンスとして機能しているが、1.1300ドルのサポートを抜けない限りダウンサイドリスクは限定的。このため早晩1.1800ドルを上抜き、1.2000ドルを回復するのではないかと想定している。
新興国通貨、加えて、米ドルからも欧州に資金が流れ出している環境下、底堅く推移している「ユーロ/米ドル」の動向に注目。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。