夏休みも終り、全員参加のマーケットが始まった。これは政治の世界でも同じで、英国では今週火曜日から国会再開となった。そして早速、Brexitを巡る攻防が始まり、今週月曜日の欧州市場でポンドが売られる局面があった。
Brexit関連報道のまとめ
先月から今月にかけてBrexit関連報道は数多くされたが、特にマーケットに影響を与えた/今後与えると思われるものは、3つある。
1)メイ首相の進退問題
メイ首相を辞任に追い込み、首相(保守党の党首)交代のクーデターを起こす話しは、今回が初めてではない。しかし、9月最初の週末に、ボリス・ジョンソン前外務相がかなり真剣にクーデターを企てているという話しが流れてきた。
英国は9月中旬から年に一度の党大会シーズンに突入するが、9月30日~10月3日には「保守党年次党大会」が開催される。この大会までに首相交代を可能にするには、遅くとも今週中に「リーダーシップチャレンジ(党首交代選)」の発表がないと、間に合わない計算となるそうだ。
リーダーシップチャレンジについて簡単に説明すると、保守党には1922年委員会というものがあり、保守党議員の15%(48人)かそれ以上の議員が「メイ首相への辞任要求」を求める書簡をこの委員会に提出すれば、「首相に対する不信任決議」が実行される。全保守党議員のうち、半数以上が不信任票を入れれば、首相は退任。もし、首相が勝ち抜いた場合、その後1年間はリーダーシップチャレンジを実施することが禁止されている。そのため、タイミングを間違うと、次期首相を狙う人物は自分で自分の首を絞めることにもなりかねない。
2)2度目の国民投票実施について
次は、労働党の動きである。9月2日に放映されたBBCテレビの老舗政治ショー「アンドリュー・マーズ・ショー」に出演した労働党影の財務相:マクドネル氏は、「労働党は正式に支持してはいないが、2度目の国民投票の可能性を全く排除すべきではない。全ての可能性があるということだ。」と発言し、翌日のニュースはこの話題一色であった。
そして、あくまでも噂であるが、9月23日~26日に開催される労働党年次大会で、「2度目の国民投票実施を約束するのではないか?」という話しまで出てきている。
ここでの「2度目の国民投票」とは、
① 2016年6月23日に実施したEU離脱の是非を問う国民投票を、もう一度やり直すのか?
② 2019年3月29日に2年間の交渉を終えた直後、Brexit合意内容について、あらためて国民の判断を仰ぐのか?
それについても、考えが分かれている。少なくとも、①については、メイ首相は強硬に反対している。
3)バルニエ欧州委員会Brexit主席交渉担当官の言動
今まで英国に対し高圧的な態度と強硬な発言が多かったバルニエ担当官。しかし、先週には、大きくトーンダウンした。それを知った英国に住む私達は、ホッと胸をなでおろしたのだが、舌の根が乾かぬうちに、「英国の提案に強く反対する」と強い非難を口にした。
今後のバルニエ担当官の言動により、ポンドが乱高下する場面はたくさん出てくるだろう。
ポンドに対する考え方
それではポンドについて考えてみよう。
1)短期的には売り
少なくとも9月中は、「政治 > 経済」の力関係が強くなると予想する。
本当に今月中にメイ首相が辞任するのか?しなかったとしても、保守党内部の残留支持派と強硬離脱派それぞれが言いたい放題であろうから、ヘッドラインからは目が離せない。
特に9月の党大会は最大の難関で、労働党/保守党それぞれが、Brexitに対しどのようなアイデアを出すか?ポンドのボラティリティーは否が応でも上がると考えざるを得ない。

2)中期的には、買い?
Brexitの交渉内容次第であるが、「合意なき離脱」が確実にならない限り、ここまでの相場展開で悪材料はかなり織り込まれたと考えている。
それに加え、8月2日に開催された英中銀金融政策理事会で、「テイラールールに基づく適切な均衡実質利子率(R-Star)** は、現在は0~1%という予想であるが、Brexit交渉が合意に至り、生産性や経常収支の改善が伴えば、R-Star水準は2~3%となるだろう。」という見解を発表した。
** R-Star(R*)についての論文:米クレーブランド連銀(2016年1月)
つまり、Brexitが合意すれば、現在の政策金利水準(0.75%)は低すぎるという考えである。そうなると、合意となった暁には、あく抜けからの買いに加え、R-Starに政策金利を近づけるという話しが英中銀理事達から出てくることも想定しておきたい。
IMMポジション
最後に、シカゴIMM通貨先物ポジションについて話したい。
最近のポンドを見ていて非常に気になっているのが、ポンドのIMMポジションである。一番最新の数字を見ると、76,928コントラクトのポンド売り持ち(ショート)となっている。

この数字は、かなり大量のポンド売り持ちが溜まっていることを示すが、2017年には10万コントラクト以上のショートが数週間続いたことがあるため、その時と比較するとまだショートが増える可能性は捨てきれない。
ポンド/ドル週足チャートにピンクと黄緑のハイライトを入れたが、ピンクは「10万コントラクト以上のポンド売り持ち局面」、黄緑が「5万コントラクト以上の売り持ち」である。2017年に起きたピンクと黄緑それぞれの局面では、いずれの場合もポンドは上昇に転じている。
もし今回も同様の動きとなれば、Brexitで少しでも良い材料が出れば、ポンド売り持ちの解消買いが出やすい地合いであることは忘れずに取引に挑みたい。

チャート:筆者作成
松崎 美子氏プロフィール

- 松崎 美子(まつざき よしこ)
- 東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。