1)新興国通貨の続落と「トルコショック」
今年は新興国通貨の軟調さが際立っている。
年初から南アフリカ・ランド、ブラジル・レアル、そしてトルコ・リラが続落。
この中でも下落が顕著だったのが「トルコ・リラ」。
トルコ・リラは「トルコショック」という表現がされるほど、その下落が際立っていた。
トルコ・リラは、6月24日の大統領選挙でエルドアン大統領が再選されたことから下落が明確になってきた。
またトルコに対しては、トランプ米大統領がトルコから輸入される鉄鋼・アルミ製品の関税を2倍に引き上げると発表したこともトルコ・リラ売りに拍車をかけた。
添付図はトルコ・リラ/円の日足。

チャート:筆者作成
年初は30円台だったトルコ・リラ/円が、7ヶ月強で一時は15円台まで急落。
つまりトルコ・リラは半年強でその価値の半分を失ったことになる。
トルコはトルコ在住の米国人牧師を2016年から拘束しており、現在は自宅軟禁状態で事実上の拘束下にある。この牧師がキリスト教福音派というトランプ米大統領の支持基盤のひとつということもあり、トランプ政権は牧師の解放を強く要求してきたが、トルコは解放に応じていない。
この問題もあり、米国によるトルコへの経済制裁もトルコ経済に大きく影を落としている。
そのため、通貨トルコ・リラはなかなか反発の糸口がつかめない。
またトルコのような新興国は、リーマンショック後に各国中央銀行が流動性を供給して市場に潤沢な資金を供給したため、経済が潤ってきた。しかし、FRBをはじめ各国中央銀行が金融正常化に向かうなか、先進国では金利が上昇しており、新興国からは資金流出が続いている。
新興国からの資金流出が目立つのは、BRICSとして注目を集めていた中国も同様。
2)上海総合指数の続落、豪ドルの続落
添付図は上海総合指数の週足

チャート:筆者作成
6月のレポートでも紹介したが、上海総合指数は高値から20%以上下落して弱気相場入りとなっている。
そして3,000をも割り込んだこともあり、戻りが極めて弱く本稿執筆時点でも2,730レベルで軟調に推移。
一方米国株が総じて底堅いことと比較すると、明暗がくっきり分かれていて、新興国から資金が流出して先進国に戻っていることを表している。
この点においては、米中貿易戦争は米国に圧倒的に有利に進んでいるともいえる。
ともあれ、この上海総合指数に引きずられるように下がってきているのが、豪ドル。
オーストラリアは政局が混乱しており、8月23日に与党自由党のコールマン金融相をはじめとする3閣僚がターンブル首相に辞表を提出。与党自由党は支持率が低迷していて、来年5月までに実施される総選挙で苦戦が予想されていて、ターンブル首相降ろしが起こった。
ターンブル首相自身もアボット首相を党内クーデター的に退陣に追い込んで首相に就任しており、今回は逆にターンブル首相が党内クーデターを起こされた形。
いずれにせよ、オーストラリア政局は急激に不安定化して豪ドルは急落。
豪ドル/米ドルは一時0.7203まで急落。
その後、懸念されたオーストラリアの自由党党首選挙で強硬派のダットン氏ではなくモリソン氏が勝利したことにより、豪ドルは一時反発した。しかし、そもそもオーストラリア経済はその多くを中国経済に依存している。上海総合指数の下落に見られるように中国経済の先行きが懸念されるなか、豪州経済は上向くこともなく、豪ドルの上値は重い展開が続いている。
このように新興国通貨や、資源国通貨から資金が流出する中、資金が流れているのが米ドル。
3)米ドル金利の上げ止まり、ドルインデックスの反落とユーロ/米ドルの反発
前述のように新興国通貨や資源国通貨が軒並み値を下げる中、資金が集まっていたのが米ドル。
添付図はドルインデックスの日足。

チャート:筆者作成
今年の2月からドルインデックスは一方的に上昇している。
そして8月15日に96.98の高値に到達した時点で、TD-Comboでダブル13を点灯し、反落を示唆。
(TD-Comboはトムデマーク氏名が開発したindicatorのひとつ。数字の13が点灯するとトレンドの反転を示唆。)
ドルインデックスの反落は、米10年債の利回りが軟調に推移していることも影響している。
米10年債は、マーケットの売りが、かなり積みあがってきていることもあり、下げ止まりから反発してきている。(利回りは低下)。
その利回りの低下がドルインデックスを反転させている展開。
そして8月15日という同日ドルインデックス同様に方向性を転じたのがユーロ/米ドル。
添付図は、ユーロ/米ドルの日足。

チャート:筆者作成
ユーロ/米ドルも1.1301ドルという安値をつけたのが8月15日。
これはドルインデックスの変化日と同日で、DEMARKでカウントダウンを点灯し、反発が示唆された。
前述のように、新興国通貨や資源国通貨からの資金流出は米ドルに向かっていた。
しかし、ドルインデックスやユーロ/米ドルの動きから、8月15日以降、資金の受け手が米ドルからユーロに移行しつつあると考えている。
4)ユーロの反発と豪ドルの下落、EURAUDは上昇トレンドへ
上記のように資源国通貨から流出した資金が徐々にユーロに移行するとの仮定が正しいとすれば、注目すべきはEURAUDとなる。
つまりユーロへの資金流入による上昇と、豪ドルからの資金流出で、EURAUDは上昇トレンドにはいることを意味している。
添付図はEURAUDの日足。

チャート:YJFX! MT4チャート
EURAUDは、今年の4月ごろからイタリア債の利回り急騰や、スペイン経済の失速などを背景に1.61豪ドル台から1.52豪ドル台への続落を演じてきた。
加えて前述のトルコ・リラの暴落が、トルコ・リラのPROXY(代替通貨)としての役割もあるユーロ/米ドルは節目の1.1500ドルを割り込み、一時1.1301ドルまで急落。
その後トルコの下落はいったん収束したことから、EURAUDは反発に転じている。
今後も年初から続いてきた新興国通貨の下落がおさまらないこと、一方で米10年債金利の上昇が止まったことで、資金は米ドルからユーロに移行する可能性が高まっているためEURAUDは上昇トレンドに入ると想定している。
この米ドルからユーロへの資金移動がより明確になれば、EURAUDは1.67豪ドル方向に反発するのではないか?と想定している。
新興国通貨からの資金が米ドルではなくユーロに移動しつつある中、EURAUDの上昇に注目。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。