スペシャル・トレンドレポート

英国の「白紙離脱」を巡る報道(松崎 美子氏)

2018年8月8日

ポンドが対ドルで1.30ドル台を下に抜けてきた。先週英中銀が利上げしたにもかかわらず、Brexitを巡る政治家の発言に完全に振り回された値動きとなっている。

一気に増えた「白紙離脱」についての言及

この3週間ほどで、EUそして英国それぞれから「白紙離脱」についての言及が増えてきた。

7月19日 欧州委員会「白紙離脱」に関する報告書を発表

欧州委員会は、白紙離脱に関する警告を載せた15ページに及ぶ報告書を発表。

報告書: http://europa.eu/rapid/press-release_IP-18-4545_en.htm

そこで欧州委員会は、EU加盟各国と住民そして域内の企業に対し、万が一「白紙離脱」になった場合に備えるよう警告を促した。確認はされていないが、現時点で準備に取り掛かっている国は、アイルランド共和国・フランス・ベルギー・オランダ・ドイツ・ポーランド・イタリア、そしてギリシャと言われている。

7月25日 ラーブ新Brexit担当相、議会証言で「白紙離脱」に関して言及

Brexit特別委員会での議会証言で、ラーブ新Brexit担当相は、「万が一に備えて、英国政府は特に生鮮食品を備蓄することになるかもしれない。白紙離脱に備え、食品会社と連携プレーを することになるかもしれない。」と発言している。

7月25日 ハンコック保健相、「白紙離脱」に関して言及

同じ日、ハンコック保健相も、「白紙離脱に備え、薬品や医療器具の備蓄を製薬/医療関係会社にお願いするつもりだ。」 と発言している。

8月3日 カーニー総裁インタビュー

この日、BBCラジオのインタビューに答えたカーニー総裁は、「英国が欧州連合(EU)と合意できないままEUから離脱するリスクは、不快なほどに高い。」との認識を示した。

8月3日 メイ首相、マクロン仏大統領と非公式会談

イタリアで休暇中であった英国のメイ首相は、休みを1日早く切り上げ、フランス大統領別荘があるフランス南部の島でマクロン大統領と非公式会談を行なった。今回の訪問は突発的なものではなく、これに先立ちラーブBrexit担当相とハント外務相が同じ週にフランスを訪問し、地ならしをしたと言われている。

会談の詳細は明らかにされていないが、一部の報道によると、メイ首相はマクロン大統領に対し、英国が7月12日に発表したBrexit報告書/白書*の内容をEU側が認めるようお願いし、もしそれが出来なければ英国は「白紙離脱」の選択しか残っていないと強く主張したと言われている。

ただし、欧州委員会のバルニエ主席交渉官を差し置いて、マクロン大統領が合意する事はあり得ないため、大統領はあくまでも交渉の主権はバルニエ氏にあると伝えたとも言われている。

今回メイ首相がわざわざマクロン大統領を選んだ理由は、EU加盟国の中でEU統合に1番精力的に取り組んでいるのが同大統領であるからだと言われており、もし同大統領が少しでも妥協の姿勢を見せれば、今後の交渉がスムーズに行われることを狙ったようだ。

*Brexit報告書/白書の概要
・英国は2年間の交渉期間が終了する2019年3月29日にEUから離脱する
・人の移動の自由は制限され、英国の国境監視は英国の手に戻ってくる
・毎年多額の拠出金をEUに支払っていたが、その必要がなくなる
・ビジネスや企業活動に優しい関税モデル
・世界各国と独自の通商交渉が結べる自由を取り返す
・EUと英国との間に自由貿易地域を創設し、モノや農産物などに共通のルールを設定することが望まれる
・消費者や労働者の権利を守り、環境に優しい基準作り
・新規のルールや規制の導入/適用に関しては政府の判断が優先される
・EU共同農業政策と共同漁業政策から離脱する
・欧州憲法裁の管轄から外れ、英国最高裁の優位性が確保される
・アイルランド共和国と北アイルランド間には、ハードボーダーは、ない
・国民の安全のためにも、EUとの安全保障における協力は継続する
・外交政策と防衛政策は英国独自の内容となるが、できる限りEUとも協力関係を密接にする

8月5日 フォックス貿易相のインタビュー

英タイムス紙日曜版のインタビューで、フォックス貿易相は、「英国が白紙離脱するチャンスは60%に上るだろう。」と語った。この発言を受け、週明け8月6日のポンド相場は、大きく下がった。

60%という具体的な数字を出したこともポンド下落に拍車をかけたが、もう一点フォックス氏の1年前の発言を英国人は忘れておらず、それがさらにポンド売りに結びついたと考えられる。

同貿易相は昨年7月に、「EUとの貿易交渉は、人類の歴史の中でもっと簡単に解決される問題である。」と語っていた。しかしわずか1年でここまで態度を硬化したことに、英国に住む我々は心から驚いたのである。

度重なる「白紙離脱」に関する言及の真意?

これはあくまでも一部の考えであるが、度重なる白紙離脱についての警告は、英国からEU側に圧力をかけ、英国の望む形で離脱交渉の合意に持っていく1つの手段であると言う意見もある。

果たしてこの考えが正しいか現時点ではわからないが、10月18・19日のEU首脳会談まで11週間しかない。バルニエ主席交渉官が語っていた通り、24時間7日連続で交渉を継続しても、間に合うのか疑問が残る。

【ここからのポンド】

執筆時の「英ポンド/米ドル」は、1.2930ドル台。

まず最初にポンド実効レートを見ると、ピンクの穏やかな上昇チャネル内での推移となっているが、黄緑線が通る「77」までの下落は、あるだろう。

データ:英中銀ホームページ

次に、私が毎月チェックしている「英ポンド/米ドル」月別の動きを見てみよう。これは、2001年から17年にかけての月足の動きである。8月の「英ポンド/米ドル」(ピンクハイライト部分)の動きを見ると、「5回 上昇、11回 下落、1回 行って来い」となり、8月の「英ポンド/米ドル」は、ポンド安/ドル高になることが多かったようだ。

表:筆者作成

最後に、週足チャートに200週SMAを載せてみた。念のために、1994年まで遡って週足のローソク足を見たが、ポンドが下げる時はだいたい5本の陰線が出ていた。多い時は7本、当然6本の時も数回ある。しかし、ほとんどの場合は5本で一旦下げ止まっている。

今週の「英ポンド/米ドル」週足は、陰線5本目。もちろん今週で下げ止まる保証はどこにもないが、もし今週の終値が50%戻しの1.2910ドル台より上で終われば、一旦調整が入る可能性が出てくる。逆にそこを下抜けて終わった場合は、ピンク線が通る1.2770/90ドル台くらいまでの下落は覚悟しておきたい。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2018年8月8日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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