スペシャル・トレンドレポート

中国景気減速、金利面からの優位性はく落で、オセアニア通貨は当面下値模索へ(竹内 典弘氏)

2018年7月20日
チーフディーラー :「米中の貿易摩擦が貿易戦争になりそうな勢いだけど、市場は平穏過ぎて儲けのチャンスが無いね」
アシスタント・マネージャー :「実体経済は徐々に悪くなってきますから、そのうち動き出しますよ」
チーフディーラー :「焦点としてはどの辺の通貨が良いのかね?」
アシスタント・マネージャー :「ダークホースはオセアニア通貨じゃないですか。僕はここまでの年間収益が今一つですから、夏休みは冬まで延期です」

年初からの収益計画に達していないからと夏季休暇を返上するアシスタント・マネージャー、ここからの注目がオセアニア通貨だという。取り巻く環境や米国で進む利上げがどう影響するのか切り込んでみた。

オセアニア通貨は(かつて)ミセスワタナベ(注)からも高金利通貨としてもてはやされた豪ドル、NZドルが有名だ。どちらの国も中国と経済的な繋がりが大きいことから中国経済の影響を受けやすく、結果的に為替レートにも強く反映されてくる。

(注)日本のFX投資家の総称、世界全体からみても取引量が大きいことから、海外でもこのままMrs.Watanabeの名称で広く通じる。

貿易統計(注)でみた場合、オーストラリアの輸出のトップは中国で28.3%、輸入も同じく18.1%、ニュージーランドでも構図は全く同じで、輸出21.0%、輸入20.0%となり、中国との結びつきは極めて強い。

(注)出典:外務省、豪州統計局、NZ統計局

米中の貿易摩擦が激化するなか、トランプ政権は5月29日(火)知的財産権侵害への制裁として6月中旬に中国製品に追加関税を発動すると表明し、実際に6月15日(金)に7月からの発動を正式決定した。この正式決定の前日、6月14日(木)から「米ドル/中国人民元」は実に13連騰し市場の話題を集めた。

こうした中国人民元の下落に対し、7月4日(水)には中国人民銀行の総裁より「人民元の安定こそが責務であり、人民元を通商問題の武器として使用しない」と伝えられたが、ここまで人民元は安値安定で一段安の様相さえうかがえる。こうした人民元安は2015年8月のチャイナ・ショックを思い起こさせ、経済的に結びつきが深いオセアニア通貨の売りを連想しやすい。

チャート: MT4チャートより筆者作成

中国の経済指標は市場からの信頼性は極めて低く、意図的に市場予想に合わせたり、高めに公表している等の論評が多い。こうしたなかでは、PMI(注)などで景気実態を把握する方が有効で、出来れば6か月程度の移動平均で計測すると経済実態がつかみやすい。

(注)Purchasing Managers` Index、購買担当者景気指数、製造業・サービス業の購買担当者への聞き取りのまとめ。

その中国製造業PMIを6か月の移動平均で表示した場合、昨年11月の51.77をピークに足元で51.32まで低下と、減速が鮮明となってきた。これは米中の貿易摩擦を背景として、製造業からは今後の中国景気に慎重な姿勢を抱いている実態が浮き彫りとなった。

チャート:Markitより筆者作成

主要通貨のなかで年初来の対米ドルでの騰落を計測すると、こうした中国景気の変調や人民元安を背景に、豪ドル、NZドル共に下落率では上位に食い込んできた。

図表:筆者作成

中央銀行の政策面ではどうだろうか?オーストラリア準備銀行(以下、RBA)は、7月3日(火)の金融政策委員会で政策金利を21会合連続で過去最低の1.5%に据え置いた。会合後に公開された声明文では多くの項目で認識を据え置く一方、「豪ドル相場に関し、過去2年のレンジ内での推移が継続」とした。

今後については「米国の通商政策の不確実性」から、「一部の新興国に資金流失等の)ひずみが発生しているリスク」も指摘し、当面同国の政策金利を低めに維持することを確認した。この「新興国」には中国も含めているとみられ、米中貿易摩擦の自国への影響を加味した。

米国の2015年12月に始まった今回の引き締め局面、先月6月には7回目の利上げが実施された。この結果、リーマンショック前の2008年に5.25%存在した豪米間の政策金利差はマイナス0.50%へと沈没し、「豪ドル/米ドル」は年初より頭の重い展開が継続する。

図表:筆者作成

ニュージーランド準備銀行(以下、RBNZ)は6月28日(木)の金融政策委員会で政策金利を11会合連続で過去最低の1.75%に据え置いた。今年の3月に就任したオア総裁は極めてハト派で、「雇用の最大化と物価の安定には、現在の緩和的な金融政策を相当の長期にわたり継続する必要がある」との姿勢を維持する。

こちらも同時に公開された声明文では、「貿易摩擦の高まりや新興国市場を意識した文言」も数多く織り込まれ、最大の貿易相手国である中国経済の変調も広く意識した内容となった。

2016年末、欧米の金融機関の一部は2017年度で米国以外では最初の引き締め局面を迎える国として、ニュージーランドを取り上げた。経済成長率が著しいという理由からだったが、結局ここまで政策金利は据え置かれてきた。

リーマンショック前の2008年に実に6.25%も存在したNZ米間の政策金利差は足元でこちらもマイナス0.25%へと縮小どころか逆転してしまった。かつて高金利通貨として豪ドルと共に世界の投資家に広くもてはやされたNZドルだが、その面影は過去のものとなりつつある。

図表:筆者作成

NZドルは2018年初め、乳製品価格の高値安定、9年ぶりの政権交代が実現し労働党主導の政権への期待からも比較的堅調推移が継続したが、ここにきて弱含む。

対米ドルを筆頭に豪ドルそしてNZドルの金利面からの優位性は大きくはく落し、資金流失に至らないまでも新規投資を考えた場合は、選択肢からは除外される局面も今後は多くなりそうだ。

こうした一方で、豪州の公正労働委員会は7月1日(月)から労働者の最低賃金の3.5%引き上げを実施した。豪州の1-3月期GDPの成長率も3.1%へと加速し、市場予想を大幅に上回った。予想物価上昇率が依然低迷していることから、早急な引き締め局面が訪れるとは考えていないが、2019年には利上げが視野に入る。

以上をまとめると、米中の貿易摩擦は沈静化どころか米国の中間選挙に向け激化が予想される。相次ぐ米国の利上げで金利面からの豪ドル、NZドルの優位性は完全に過去のものとなった。RBA/RBNZの最初の利上げが市場から現実視されるまで、「豪ドル/米ドル」、「NZDドル/米ドル」共に頭の重い展開は継続し、年初来の安値更新という場面も想定できそうだ。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2018年7月20日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について竹内典弘氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社はヤフー株式会社
(東証一部上場 4689)のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN