スペシャル・トレンドレポート

利上げでも通貨高にならない背景は?「米ドル/円」上昇軌道に回帰出来ず(竹内 典弘氏)

2018年6月19日
チーフディーラー :「イベント目白押しの週もそろそろ終盤だけど、「米ドル/円」に追い風のニュースが相次いでも上昇にならないね」
アシスタント・マネージャー :「織り込んでいた部分もあるのでしょうが、FOMC(注)での利上げがそもそも通貨高につながる訳でもありませんので」
チーフディーラー :「まさか先月の香港でのミーティングで議論してきたのか?」
アシスタント・マネージャー :「いえ、自分から提案して議題に加えてもらいました」
チーフディーラー :「…。」

(注)連邦公開市場委員会、米国の中央銀行であるFRBが金融政策を議論する会議。

益々勢いが加速するアシスタント・マネージャーだが、「利上げが通貨高につながらないケースが存在するという」。金利上昇は当該通貨の魅力増となり、資金集中や資金回帰につながると考えそうだが、そうでもないらしい。

今週は(本レポートは6月15日(金)午前執筆)史上初の米朝首脳会談に加え、日程順に米欧日で主要3中銀が金融政策を発表(日本銀行はこれから)し、イベントずくめの週を終えようとしている。

今週一番の注目であったのは、6月12日(火)にシンガポールで開催された史上初の米朝首脳会談だった。朝鮮戦争終結宣言や朝鮮半島の非核化への具体的な時期等への言及は無かったものの、米朝の首脳が共同文書に合意・署名したことは歴史的な前進だった。

欧米のメディア中心に、「核放棄を明記した2005年の6か国協議」以下の内容で、北朝鮮に「時間稼ぎ」だけを許したという辛辣な論評も多い。ただ合意が担保される限り、核実験は停止、弾道ミサイルが日本列島を横切る事態は当面無くなった。

これは明らかに東アジアでの地政学リスクの後退を意味し、このニュース単体では「米ドル/円」の買い要因だが、米朝会談当日の午前中に「米ドル/円」は110.49円のこの日の高値を示現するだけで、トランプ大統領の会見を経てもこの高値を更新することは無かった。

翌6月13日(水)には米国の中央銀行であるFRBがFOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、市場の予想通り政策金利であるフェデラルファンド金利を25bp(0.25%)引き上げて誘導目標を1.75-2.00%とした。

事前にこの利上げはほぼ完全に織り込まれ、「米ドル/円」は発表直後に110.85円の高値を付けた後は反落し、110円台後半の重さを印象付けた。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

「米ドル/円」が今年の年初来の安値を付けた3月26日(月)以降の2018年末までの利上げの織り込み回数と「米ドル/円」のレートには相関があり、仮に同日からフルに3回(3月21日(水)に今年1度目の利上げを実施しているので通年では4回)を織り込んでも、相関上では113.37円と年初来の高値(113.38円)に届かない。

図表 :筆者作成

同時に公開した声明文のなかで、2018年末と2019年末の誘導水準を前回3月のFOMC発表分より、それぞれ利上げ一回分に相当する25bp(0.25%)分引き上げた。

この声明文から判断する限り、2018年通期の利上げは全体で4回、2019年が3回と1回分ずつ前倒しされただけで、その結果として2020年度末の予想水準は変わらず、2020年末までに予想される利上げ回数はこの3年間で8回となり全く変わっていない。

図表 : FRBの声明から筆者作成

「長期の均衡金利」(2.875%)も変わっておらず、現在の誘導水準である1.75-2.00%(中心値で1.875%)より、4回分、つまり1.00%の利上げでこの水準に達する。

リーマンショック後の米国の景気回復は2018年7月で実に10年目に突入し、史上最長の120か月が視野に入る。上述のFRBの利上げ予想(見通し)はあくまで経済指標等に減速の兆しが、「全く見られず」このまま景気が巡航速度で拡大を続ける前提だ。

ここからの4回は今年残りあと2回、来年3回予定されるなかで2回目が実施されるとこの2.875%を達成してしまい、ここで一旦「打ち止め感」が出る恐れがある。

こうした打ち止め感が広く金融市場に意識された場合、長期金利の低下や「米ドル」安を招く可能性が大きく注意しておきたい。

今回の引き締め局面では、2015年12月以降7度の利上げが実施された。今回実施分を除くここまでの6回は、「米ドル/円」で実施当日の引け値とその後の推移を追った場合、1か月後の月末終値では3回が下落、2か月後の月末終値に至っては実に5回が下落に転じており、利上げが「米ドル」高に直結していない。

チャート :筆者作成

利上げは金利選好という観点で、キャリートレードを活発化させそうだが、何故「米ドル高」にならないのだろうか。利上げは好景気を過熱させることなく巡航速度で出来るだけ長く継続させるのに必要で、将来の景気減速時に利下げへの、のりしろとしても機能する。

一方で、利上げを繰り返すことで短期の金利が上昇する半面で、長期の金利は「将来の減速」を広く織り込み始め、短期程の上昇幅では上昇しない。この結果、引き締め局面の末期では短期と長期の金利差は縮小し、最終的に逆転する「逆イールド」という珍しい現象が発生する。

ここで注意を要するのは、「逆イールド」の発生は景気減速へのシグナルで、直近30年では約10年おきに3度発生し、その全てで1-2年以内にリセッション(景気後退)へと突入している。

直近で発生したのは、グリーンスパン元FRB議長の下で、2年間で425bp(4.25%)の利上げが完了した2007年で、直後には金融恐慌を招いたリーマンショックが発生している。

チャート :筆者作成

今回もここから2回の利上げ、つまり早ければ年内に、遅くとも3回の利上げ後だとすると来年初頭には約11年振りとなる「逆イールド」が発生することになる。

以下のチャートは2016年の米国の大統領選挙でトランプ候補が勝利した11月以降の「米ドル/円」と米国の10年債金利と2年債金利の金利差(10-2)で「米ドル/円」がほぼ金利差に沿って変動していることが分かる。

チャート : 筆者作成

この「逆イールド」という現象は景気の循環上、避けて通れず、周期的に必ずやってくるものなので上手に扱っていくしかない。米国内では失業率は足元で3.8%まで低下、FRBが完全雇用と判断する4.5%を大きく下回る。今回のFOMCでは2018年末にこちらの見通しを3.6%まで引き下げてきた。

米景気は物価がやや伸び悩む程度で、現状では死角は見当たらない。しかしミクロの分野ではこうして、将来のリセッションへの準備が日々進んでいる。

ここまで利上げが繰り返されるなかで、利上げ実施後2か月後の終り値で判断した場合、その大部分で下落してきた。これは我々の様な為替取引を生業とする者にとっては願ってもないチャンスで、ここからは単純に、リスクオフの相場の到来を虎視眈々と待つだけだ。

引き続き「米ドル/円」は上昇軌道に本格的に回帰する事無く、下値模索の展開が継続すると考えている。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2018年6月19日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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