3月4日の総選挙から88日が過ぎた6月1日、イタリアでは5つ星運動と同盟によるポピュリズム連立政権が誕生した。財務相候補として大統領に拒否された反ユーロ支持のサボナ氏はEU問題担当大臣に就任したが、政権誕生3日目の週末日曜日、ドイツに向けて早速攻撃を開始したようだ。
ユーロから離脱すべきは、ドイツ
週末日曜日、イタリアのサボナEU問題担当大臣は英エクスプレス紙のインタビューに答える形で、「ユーロから離脱すべきなのは、イタリアではなく、ドイツだ。低金利の恩恵を受け、ますます黒字化するドイツと南欧州諸国との思想は一致しない。」と語り、新しく経済財務相に就任したトリア氏も、この意見を支持していることがわかった。
メルケル首相もインタビュー
同じ日曜日、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙(Frankfurter Allgemeine Zeitung、FAZ)には、イタリアについてのメルケル首相のインタビューが載っていた。イタリア新連立政権が2500億ユーロ規模の債務削減を欧州中銀(ECB)に求める噂についてメルケル首相は、「ユーロ圏統合の深化と結束はとても重要である。しかし、これは加盟国の債務を他の加盟国全体で共有することとは違う。イタリアの債務削減を認めるつもりは、ない。」と一蹴している。
ドイツの本音
同じく週末発売されたヨーロッパ最大の発行数を誇るドイツのデア・シュピーゲル誌 (Der Spiegel) の表紙が話題になっている。そこでは、イタリア料理の代名詞とも言えるパスタで首吊りの輪を作った絵が描かれ、「 Ciao amore! Italien zerstört sich selbst – und reißt Europa mit こんにちは、愛しい人よ・・・イタリアは自滅する。そしてそれがヨーロッパをずたずたに引き裂くだろう」という恐ろしいサブタイトルがついていた。

有料記事であるため全文は読めないが、一部の文章が出ていたので読んでみると、具体的な国名を避けてはいるものの、「ぶらぶらと気ままな生活を送ることは自由であるが、それをするのに他人の金を当てにするとは、どういうものか?物乞いでさえも、お金や食べ物を与えれば、少なくとも’ありがとう’という感謝の言葉を口にするものだ。尊敬に値する国は、他国にせびるような行為は、しない。尊敬に値する国は、自分達の始末をする時に、他国の手は借りない。」と、予想以上に辛辣な意見が書かれていた。
これがドイツ人全体の共通した意見だとは思いたくないが、イタリア新連立政権の動き、特に債務削減要求の噂に対し、必要以上に神経質になっていることが伺える。
イタリア内閣信任投票
数々の報道を読む限り、今週中に上下両院で実施される予定である内閣信任投票は、無事可決するという予想がほとんどである。
それらの報道の中には、5つ星運動を「左翼」に位置づける記事がいくつかあった。個人的には、同党を左翼に位置づけることに、若干の違和感を感じている。
いずれにしても、5つ星運動と極右の同盟との連立政権には、一切の中道色がない。そして、同じヨーロッパの同胞であるメルケル独首相やマクロン仏大統領よりも、ロシアのプーチン大統領を好むような政権になるかもしれない。言い過ぎかもしれないが、ディマイオ党首とサルビーニ書記長のコンビは、アメリカのトランプ大統領とトルコのエルドアン大統領が連立政権を組むような背筋が凍る印象を持った。
今後の連立政権の動きの中でも特に、政治経験が長く有権者の支持が大きく伸びている同盟のサルビーニ書記長の言動からは、目が離せなくなるのは確実であろう。
【ここからのユーロ】
ここからのユーロについて考えるとき、2つの相反した現象に目を向ける必要があるだろう。
ECBの出方
5月31日、ユーロ圏消費者物価指数(HICP)が発表された。
http://ec.europa.eu/eurostat/documents/2995521/8944074/2-31052018-BP-EN.pdf/8ff7ea17-a807-4c45-ae1c-9226dce57cae
(前年比) 4月 +1.2% → 5月予想 +1.6% → 結果 +1.9%
原油高によるエネルギー価格上昇を受け、ユーロ圏のインフレ率は一気にECBの目標である「2%以下ではあるが、2%近く」まで上昇した。

チャート:筆者作成
データ:欧州統計局ホームページ
6月14日に開催されるECB理事会では、9月末に終了するテーパリングの変更内容が発表されるということが、つい最近までのコンセンサスとなっていた。しかし、先週のイタリアやスペインの政局不安を受け、発表時期を7月26日の理事会に延期する可能性が示唆されていたところに突然、驚きのインフレ率の発表となった。同時に発表されたドイツやフランスのインフレ率は、2%を優に超えているのも、問題を複雑にしている。
ECBの責務は物価安定の維持であるため、教科書通りの動きであれば、遅くても年内にテーパリングを終了することが望ましい。しかしヨーロッパに住んでいる人間としては、イタリアの政局動向が先週の波乱で全て終了したとは思いづらい。そのあたりの舵取りを、来週のドラギ総裁が記者会見でどう語るのか、非常に興味深い。
リスクは、イタリア > スペイン
スペインもイタリア同様、政治的なリスクと背中合わせではあるが、どうして市場参加者はスペインよりもイタリアの先行きをより心配しているのか? それは、最悪の事態としてイタリアはユーロ圏離脱リスクを抱えているが、スペインにはそのリスクがないという部分が大きいと考えられる。
ここからのユーロ
ユーロ/円やユーロ/米ドルの週足のろうそく足の形を見ると、長い下ヒゲが出ている。そのため、一旦底を打ち、今週は調整の戻しとなる可能性が出てきた。しかし、私はイタリア政局動向を楽観視していないため、調整が終われば新たな下落が待っているという考えを捨てていない。
それでは調整の戻しは、どのあたりまであるのだろう?ここではユーロ/円で考えてみた。
このチャートは、ユーロ/円日足に75日移動平均線を乗せたものである。今週の戻しの目安としては、ピンクのラインが通る129.30/40円台が最初のターゲット。そこが抜けた場合は、75日移動平均線が通る130.70円台を想定している。直近高値は5月22日につけた131.336円であるため、その少し上に損切りをおいて売りで攻めようと考えている。

チャート:筆者作成
松崎 美子氏プロフィール

- 松崎 美子(まつざき よしこ)
- 東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。