スペシャル・トレンドレポート

英国は、今秋にも解散総選挙となるのか?(松崎 美子氏)

2018年5月23日

今週月曜日の欧州時間に、ポンドが対ドルで1.3400を割り込んだ。この背景には、新たな解散総選挙の噂がある。

今回のコラムでは、突然出てきた解散総選挙の噂について掘り下げてみたいと思う。

英タイムス紙日曜版の報道

英国の政治は日曜日に動く。理由はいくつかあるが、毎週日曜日の朝に放映されるBBCテレビの老舗政治ショー「Andrew Marr’s Show」(アンドリュー・マー・ショー)に出演する政治家が、問題発言を起こしやすいことが筆頭に挙げられる。もうひとつは、英国の各紙日曜版は平日の5~10倍ほどボリュームがあり、政治関連の記事がぎっしりと詰まっており、紙面を使い問題提起がなされることが多いことも影響している。

ハリー王子とメーガンさんのロイヤル・ウエディングで、英国中が熱狂に包まれている中、5月20日発売のタイムス紙日曜版では、保守党のBrexit支持派議員の間で解散総選挙実施の噂が出てきたと報道された。さらに驚くことに、その時期は、早ければ今秋だとも付け加えられていた。

現在、英国議会では6月28/29日に開催されるEUサミットに向け、アイルランド国境問題と関税同盟への関与を審議している最中である。メイ首相は毎週閣僚によるBrexit委員会を招集し解決を急いでいるが、先週5月14日には保守党全ての議員を対象とした集会を開き、メイ首相が信じる関税同盟への関与の形について理解を求めた。

しかし、関税同盟残留希望派と反対派、それ以外のグループと、いくつものグループに分かれてしまい、まとまる気配は全くない。

関税同盟に関するメイ首相からの提案

関税同盟の扱い方についてメイ首相は3つの提案をしている。残念なことに、いずれの案も非常に複雑なシステムであると同時に、EU側もかなりのコミットを要請されるため、実現する可能性は現時点では低いと言われている。

【関税アレンジメント案(maximum facilitation max-fac案)=国境問題解決にならず】

監視カメラやハイテク技術を駆使し、国境での関税検査を最小限に絞る。しかし、完全になくなる訳ではない。政府が認めた企業の製品は、数ヶ月に一度、まとめて関税を支払う形にして、1回1回の関税支払いにかかる手数や時間を省く。

この案の問題点は、アイルランド共和国と北アイルランドの間で、最小限ではあるが関税検査のチェックポイントを設ける必要が出てくるため、EU側は及び腰。

【関税パートナーシップ案=国境問題解決可能】

関税同盟に非常に似たシステムを作り、英国に輸入されるモノに対する関税を、英国政府がEUに代わって徴収。この時に課される関税の税率は、EU側の規定に沿う。そのモノが今後英国内でだけで使用された/残留した場合、英国が新しく設定する関税が(EUの関税より)低かった場合、その差額を企業は受け取ることが出来る。

この案の問題点は、EU側の規定に従う部分があるため、英国はEU以外の国と自由貿易協定が結べない。そのため、Brexit強硬派議員は反対し、EU側も内容が複雑すぎて、消極的。ただし、国境問題は解決される。ただし、この案は国際貿易法に違反しているという指摘が出てきている。

【Backstop案(予備案)】

2年間の交渉終了後、英国連合王国全ての国が関税同盟に残り、移行期間中にあらためて離脱の是非を探る。

この案の問題点は、あまりにも宙ぶらりんのアイデアで、移行期間中に必ず決定するという保証はどこにもない。

関税同盟残留賛成/反対は、ほぼ同数

Brexit法案の審議が進んでいるが、「(少なくとも移行期間中は)関税同盟に残る」という修正案に英貴族院(上院)は賛成票を投じた。下院は6月末のEUサミットまでに間に合うよう、審議・採決をしなければならない。

ここで問題となるのが、果たして下院でも賛成多数となるのか?もし残留賛成となれば、Brexit強硬派がメイ首相引き摺り下ろしにかかることは確実で、新たな政治の混乱が起きることは避けられない。

【関税同盟残留票の数は?】

これは下院の党別議席数である。

保守党316議席のうち、確実に「関税同盟残留賛成票」を入れる議員は11人。上手く行けばあと数議席増えるかもしれない。ここでは11議席として計算するが、保守党は316-11=305議席が、「残留反対(離脱)票」を入れる計算となる。それに加え、DUP党が閣外協力しているため、たぶん最低でも8議席、うまくいけば10議席全てが保守党と同じ意見を持つだろう。つまり、「残留反対票」は、313~315票となる確率が高い。

それに反して、「残留賛成票」は、下の表で赤い星をつけた政党全てとなるはずである。ただし、労働党から造反議員が出た場合はこの計算は大きく狂う。もし労働党が全員が賛成票に入れたと仮定した場合、合計すると315票となる。

出所:英議会ホームページ

つまり、残留賛成/反対ともに、315票前後という計算となった。これはあくまでも、下院議員の棄権票を想定していないため、たぶん実際の数字はかなり違ったものになるだろう。ちなみに、昨年12月に下院で実施されたBrexit法案修正案に関する採決では、保守党から11人の造反議員が出た。

最後に、シン・フェイン党(北アイルランド)は、議会での採決には一切参加しない方針を貫いているため、カウントされていない。

解散総選挙となるか?

今回の解散総選挙の噂は、保守党のBrexit強硬派から出ているようだ。同党の強硬派は7名おり、Brexit賛成派の議員を加えると最低でも60名と言われている。

野党:労働党も次の総選挙では是が非でも勝ちたいという希望が強いため、上記の60名の保守党とともに超党派グループとして、内閣不信任案決議を提出する可能性が囁かれている。関税同盟離脱では負けるかもしれないが、内閣不信任案決議に関しては、数の上で勝てるという公算のようだ。

労働党の議員の間では、10月にも解散総選挙実施という話しが流れており、既に自分の選挙区で選挙用のチラシを作成する手配をしている議員もいるという話しだ。

ここからのポンド

秋の解散総選挙について、正式な否定報道が出ない限り、この問題をマーケットは織り込みに行くので、しばらくポンドは頭の重い展開を強いられるだろう。

チャート:筆者作成

私は当面のポンド/ドルの下値ターゲットは、チャート上の水色ハイライトの上限:1.3410台と見ていたが、原稿執筆時点で1.34055での取引となっている。今週このレベルが下抜けて終了した場合、最初のターゲットは1.32582(赤丸レベル)を考えている。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2018年5月23日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
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