スペシャル・トレンドレポート

ユーロ圏の経済指標は 鈍化から失速へ!?(竹内 典弘氏)

2018年5月18日
チーフディーラー : :「君も2年目に入ってここまでの実績は十分だ、来月香港で開催されるグローバルでのミーティングに僕の代わりに出てみないか」
アシスタント・マネージャー :「…..。」
チーフディーラー :「どうした、初の大舞台だぞ。事前に下準備をしっかりする様に」
アシスタント・マネージャー :「謹んで承ります。トピックはアジアからみるユーロの行方等はどうでしょうか」

そのアシスタント・マネージャー扱う予定の「ユーロ」だが「ユーロ/米ドル」でみた場合、年初から1.25台を3度試した後はさえない展開が継続している。

一旦1.22/1.25程度のレンジで推移するかにみえたが、3月1日(木)の安値1.2154を明確に割れた4月26日(木)以降は、ほとんど戻りも無く極めて軟調に推移している。

昨年春に物価関連を筆頭に経済指標が著しい改善傾向を示し、ECB(欧州中央銀行)の緩和からの正常化が早まるとも思惑が、上述の「ユーロ/米ドル」が1.25台を回復する原動力であった。

日本がゴールデン・ウィークで休暇中のなかで5月3日(木)に発表となった4月のユーロ圏消費者物価(以下、HICP)は速報値で+1.2%と前月より鈍化した。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

ここまでこうした鈍化に対し指摘されてきた背景は、南欧での降雪、インフルエンザのまん延、そしてイースター休暇のずれにより今年の場合、航空運賃等が3月に上振れ、その反動が4月に出たとする説が有力だが果たしてそうだろうか。

このユーロ圏のHICPは昨年1月には2.0%に到達、上昇基調が鮮明だったが、現在はここからは想像もつかない程の鈍化傾向を示している。真因は何か?筆者はその一部は、ECBの金融正常化に前のめりで進んだ「ユーロ」高が理由だと考えている。

チャート : ユーロスタットより筆者作成

ドイツの公的研究機関IFO研究所は、全独の1万社を対象に日本の日銀短観と同様のサーベイを実施し毎月公開する。この指数をIfo指数と呼び昨年の11月以降では発表順に117.5、117.2、117.6と歴史的な高水準を記録してきたが、ここにきて鈍化が鮮明となってきた。

この指数だが、今年の4月より算出方法が変更され、新たにサービス業を調査対象に加えた。その新基準のもとで発表された4月の数値は予想102.7に対し102.1と下振れた。

チャート : 独IFO研究所より筆者作成

こうした傾向が続くなかで、象徴的なのはユーロ圏PMI(注)の悪化だ。その4月の数値は実に55.1と2017年1月以来の水準まで落ち込んだ。下記のチャート見れば一目瞭然だが、今年の年初までの「ユーロ/米ドル」の回復はPMIが先導してきたことがうかがえる。

(注)Purchasing Managers` Indexの略で、日本語名では「購買担当者景気指数」。製造業などの購買担当者へのアンケート調査をまとめ指数化したもの。

チャート:既に発表済みの数値等から筆者作成

IMF(国際通貨基金)は4半期に一度、世界の中央銀行の外貨準備に占める主要通貨の残高を公開している。1999年に誕生した通貨「ユーロ」の比率は、基軸通貨「米ドル」に代わりリーマンショック直後には27.98%まで高まったが、その後は「ユーロ」相場の下落に伴い、一本調子で低下、2016年にはその比率は実に19.13%まで低下してしまった。

さて、この比率だがここまでの「ユーロ/米ドル」相場の回復で、大きく改善かと思いきや、足元ではわずかに20.15%、さほど変化が見られない。なぜだろうか?これには現在のECBが採用する預金ファシリティ金利が依然マイナス0.4%に沈んでいるのが理由だと考えている。

中央銀行の外貨準備に、こうしたマイナス金利が採用されている通貨の比率を高めることは資金配分上、全く説得力がない。つまりこのユーロの比率の上昇にはECBの金融正常化が先決であり、正常化が本格化しない限り中央銀行の外貨準備のユーロへの資金回帰は起こりにくいと考えたい。

チャート : IMF(国際通貨基金)より筆者作成

昨年春以降、フランス大統領選を無難に通過、ドラギ総裁の「デフレはリフレに変わった」発言(昨年6月27日(火))もあり「ユーロ/米ドル」は順調に上昇軌道を描き、IMMの通貨先物残高でみても「ユーロ」の買い持ちは大きく増加してきた。

ただその残高は、「ユーロ/米ドル」が年初来の高値1.2555を付けた2月16日(金)以降も一貫して増加を続け、4月17日(火)には151476枚まで増加した。ただよくみてみると、年初来高値の後は「ユーロ/米ドル」は下落していて、いわゆるダイバージェンス(価格とのかい離)が発生していたことになる。

その後の残高の推移は「ユーロ/米ドル」の下落に伴い、減少傾向を示しているが、依然その水準は高い。「ユーロ」の回復がみられない場合は投機ポジションであることから、「一抜けた」がいつ出てきてもおかしくない状態だ。

チャート : CFTCの公開する建玉等の数値から筆者作成

引き締めが継続する米国、一方で景気の失速が意識される欧州、この二極化の動きは金利にも現れてきた。かつて2014年の春にかけて「ECBトレード」がもてはやされた。これは、「緩和からの出口が意識された米国に対し、マイナス金利の幅を拡大する欧州」から「ユーロ/米ドル」を売り建てるトレードだった。

こうした動きは、米独の金利差がこの先拡大すると見込んだトレードだったが、ここにきてその金利差は直近で30年ぶりの水準まで拡大してきた。つまり現在の金利差は2014年春に「ユーロ/米ドル」が1.05を割れていた時より拡大している。

チャート : 筆者作成

大雑把にこの金利差だが、10年で2.4%だが、2年では実に3.1%程度だ。実際に3.1%の金利差が存在すれば、マイナス金利のユーロをファンディング通貨(注)として売り、「米ドル」を買い建てれば立派な「キャリートレード」が存在する程度の金利差が発生している。

(注)キャリートレードを行ううえで資金調達通貨、借り入れをする通貨。

こうしたなかでも、ECBのチーフ・エコノミストであるプラート専務理事は5月10日(木)に「ここにきての減速は2017年からの経済成長の反動」とし「一過性」だと結論付けた。ただこうした楽観姿勢は夏場にかけての景気指標の回復を前提としていて、そうでない場合はECBの正常化も大幅な修正局面を迫られることになる。

以上をまとめると、「ユーロ/米ドル」が年初に1.25台を3度トライした原動力は、最短で年内のECBの利上げを織り込みに行ったユーフォリアだった。その背景は、早急な引き締めが必要なほどのユーロ圏の力強い景気回復だったが、そうした観測はここまでの展開を踏まえると杞憂に終わりそうだ。

この先、経済指標の底打ちが確認されない限り「ユーロ/米ドル」は調整局面入りと捉えておきたい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2018年5月18日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
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