スペシャル・トレンドレポート

「米ドル/円」日米首脳会談後も予断を許さず、年内100円割れも!?(竹内 典弘氏)

2018年4月20日
チーフディーラー : :「為替報告書(注)の公開もシリアへの軍事作戦も、週明けの市場に影響はほぼ無かったじゃないか」
アシスタント・マネージャー :「そんな単純なものでもありませんよ」
チーフディーラー :「これからじんわりと効いてくるの?」
アシスタント・マネージャー :「当然です、日米首脳会談もありますし、為替報告書の存在を軽く見るべきではありません」

この世界に入って2年目ながら、既に頭角を現すアシスタント・マネージャー、為替報告書の真価はこれから発揮されるという。

(注)米国の財務省が年2回公開する為替報告。このなかで、貿易相手国の経済状況、貿易収支、通貨政策等を広範に分析している。米国の通貨政策を占ううえで必読の報告書。

米英仏は日本時間4月14日(土)朝、「シリアの化学兵器製造関連施設を攻撃した」と発表した。昨年4月7日(金)に次ぐ軍事作戦だったが、前回比で攻撃力は昨年の2倍以上とする一方、攻撃範囲は限定的で当日限りであった。週明け4月16日(月)の市場反応は極めて冷静だった。

図表:筆者作成

シリア攻撃とほぼ同時に公開されたのが為替報告書だった。米財務省は、通貨安誘導をけん制する狙いから3つの条件を指定し、このうち2つに抵触する場合「監視リスト」に指定し、以降の推移を観察している。中国、日本、韓国、ドイツ、スイスまでは不名誉の常連だが、今回はここにインドが加えられた。

中国の場合は、実は1つしか抵触していないが、「米国の貿易赤字の約半分を占めるため」「巨大かつ不相応」という範疇で監視リストに入れられている。

図表:米財務省の為替報告書より筆者作成

この6か国のなかで、中国にはここまで「1500億ドルの追加関税」が検討され、現在USTR(通商代表部)は6月を目途に品目の策定中。トランプ大統領は韓国に対しては、在韓米軍の撤退のカードを絡め自由貿易協定(以下、FTA)を妥結した。

さて次のウォーリーを探すと、どうしても「日本」が浮上する。報告書のなかでは現在の「米ドル/円」相場は、実質実効為替レート(以下、REER)(注)の直近20年平均に比べて、『25%近く割安』と指摘した。

(注)Real Effective Exchange Rate、特定の2国間の通貨の変動だけに焦点を当てず、多通貨間で貿易総額等も加味して算出される為替レート。日銀の黒田総裁が2015年に言及、「米ドル/円」は125円台でピークアウトしてしまった。

為替報告書は年に2回公開されるが、前回2017年10月17日(火)・前々回2017年4月14日(金)では、「米ドル/円」は、このREER比で円は「20%」割安との指摘で、今回更に割安感を強調してきたことになる。

チャート : 日本銀行、国際決済銀行より筆者作成

次にこの報告書を読み進めると、「過去4年間で着実に増えてきた貿易黒字に引き続き強い懸念」を表明している。そうした貿易黒字を減らすためには、通貨の調整(円高)」が先決というのが、この報告書の本来の意図であろう。

上述、韓国は3月27日(火)米国とFTAを妥結した。このなかに通貨安誘導を禁止する「為替条項」という約束まで取り決めてしまった。2017年の韓国の対米貿易黒字は229億ドル、一方で日本は690億ドル、同様の条件でのFTAを持ちかけられた場合、黒字額3倍の日本はどう対処するだろうか。

こうした通商関連やFTA締結の実績を背景にトランプ大統領に支持率は、2月の35%よりこの3月下旬には42%へと急上昇した。筆者はトランプ大統領の胸中を察することは出来ないが、こうした通商関連の実績が支持率回復に貢献したことは明白で、ご本人は少なからず「味をしめた」と思っているに違いない。

こうしたなかで、4月17日(火)、18日(水)、安倍首相と日米首脳会談に臨む(本レポートは18日(水)朝執筆、日米首脳会談が開催中で共同声明はこの後)。実績が支持率と「味をしめた」トランプ大統領が、「為替条項」を含めた無理難題を切り出した場合、「米ドル/円」にはネガティブなイベントとなりそうだ。

さてここにきて、シカゴの通貨先物市場(以下、IMM)での「円売り」ポジションは4月3日(火)時点で「円買い」に転じた。筆者はこちらのポジションの増減もさることながら、一番重視するのはこのIMMの残高が「買いから売り」、または「売りから買い」に転換するタイミングであり、これを分水嶺と踏んでいる。

この転換を、トレンドをさらに補強する材料ととらえているからだ。過去に目を転じると、2016年1月5日(火)にIMMの円のポジションは、前週の円の「売り持ち」17226枚より、「買い持ち」4103枚に転じた。

その後、日本銀行がマイナス金利を採用、銀行の収益悪化懸念から金融株主導で株価は大きな下げに見舞われた。「米ドル/円」はこの月の高値121.70より反落、年央には99.00までの大幅な下落を演じてしまった。

その後のIMMのポジションの推移をたどると、「米ドル/円」がこの99.00に到達する約2か月前の2016年4月19日(火)には、円の買い持ちは実に71870枚まで増加していた。

チャート:筆者作成

では金利面ではどうか。「米ドル/円」の米金利や日米金利差からの動きとの相関が途絶して久しい。米金利の上昇に「米ドル」が上昇で反応しない一方で、米金利の上昇に「円」の上昇が確認できたわけだから、両者の間に相関が生まれないか確認してみた。

米国の政策金利の動向を色濃く反映する米2年債金利の『逆数』と「米ドル/円」の動きの相関を検証したところ、相関係数(注)で0.8255という高い相関が確認された。

(注)2つの変数の間の強弱を測る指標。目安として「0.7~1.0」は「強い相関」があると判断される。

チャート:筆者作成

これは今年2月2日(金)以降の展開を振り返れば明々白々だ。米雇用統計で平均時給の前年比伸び率が加速、インフレ懸念から米金利は上昇、株価は急落だった。その結果として「米ドル/円」は売られた。

金利高と株高が共存する「適温相場」というのはもはや過去の話で、金利の上昇に株が既に耐えられない局面を迎えた。こうしたなかでも米国の中央銀行であるFRBは好景気のさらなる継続の為に、利上は休止しない。

足元で米2年債金利は2.394%水準、上述の相関が継続すると、米2年債金利2.833%と整合的な「米ドル/円」は100円丁度だ。2年債の金利は政策金利をほぼ反映するわけだから、FRBがこれから2、3度利上げをしただけでこの2.833%は達成されてしまう。

以上をまとめると、日米首脳会談を終えると一つ「米ドル/円」の売り材料を消化することになる。ただ米財務省は長期平均比25%も割安で推移する「米ドル/円」を未だ調整不足と診断した。金利面でも利上げの継続はむしろ「米ドル/円」の売り材料でしかなくなった。

ここからやや戻り歩調を予想するも、「米ドル/円」の継続的な上昇を予想するのは、この環境を前提にすると相当厳しい。年内100円割れも荒唐無稽でもあるまい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2018年4月20日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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