スペシャル・トレンドレポート

「米ドル/円」戻りは一時的か?対米貿易黒字国の「円」への上昇圧力は継続!(竹内 典弘氏)

2018年3月16日
チーフディーラー :「日銀の政策スタンスの変化、通商問題、金利上昇からの米株下落と、ここまでピッタリじゃないか。このまま「米ドル/円」は105円割れかい?」
アシスタント・マネージャー :「年初から既に8円下げていますからね、一旦小休止じゃないですか?」
チーフディーラー :「え~、そうなの?」
アシスタント・マネージャー :「トランプ大統領が、条件付きで鉄鋼輸入制限に署名しましたよね。“Buy the fact”(注)で下落が一旦終了の可能性もあります」

(注)この場合は、“Buy the rumor、sell the fact”「うわさで買って、事実で売る」の逆、「(真実(事実)が判明して、公開されて)買い戻す」の意味。

トランプ大統領は昨年12月22日(金)に「2017年減税と雇用法」と題される大型の減税法案に署名、大統領就任以来の大きな実績を残した。しかし年明け以降は1月23日(火)に「太陽光パネルと洗濯機にセーフガード(注)を発動」、3月1日(木)には「鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課す」と表明していた。

(注)特定品の輸入急増が国内産業に大きな損失を与えると政府が判断した場合、その損害を回避するために一定の輸入制限措置を発動すること。

これにより、新聞紙面等を賑わす文言には大きな変化が現れた。トランプ政権誕生の頃からのこうしたメディアを埋める文言の変化を振り返ると、「通商政策」⇒「通商摩擦」⇒「貿易不均衡」⇒「貿易赤字」⇒「赤字削減」⇒「追加関税」⇒「貿易戦争」と次第に姿勢がエスカレートしてきたことがうかがえる。

為替市場の反応も、こうした姿勢の変化を反映し「米ドル/円」は売りで反応してきた。貿易不均衡の解消は黒字国の輸入量の増加での解決より、どうしても赤字国の保護貿易政策への傾斜、為替市場では結果として、赤字国の通貨安を伴う数量調整が意識されやすい。年初からの「米ドル」安はこうした事態の進展を先取りするものだった。

図表:筆者作成

こうしたなかで3月8日(木)、トランプ大統領は「鉄鋼とアルミニウムに輸入制限を23日から発動を命じる文書に署名」した。ただし、NAFTA再交渉中のメキシコとカナダを当面除外、その他の国も同盟国中心に協議に応じるとした。アメとムチの政策だが、すべての国への適応は見送られた。

貿易戦争という最悪のシナリオを予想していた市場にはやや安堵で、この日には「米朝首脳会談、5月にも開催」と伝わったこともあり、株価は上昇、「米ドル/円」も買い戻された。

チャート : YJFX!MT4チャートより筆者作成

2月以降の株価の大幅な調整は、2月2日(金)に発表された1月の米雇用統計のなかで平均時給の前年比伸び率が上振れしたことからだった。再び注目が集まった3月9日(金)発表の2月の同統計ではこの数値は予想を下回る+2.6%と発表された。

チャート : 米労働省より筆者作成

この後の市場反応は、株価は上昇する一方で金利は低下していない。つまり株価の上昇はこの平均時給が『一時的に伸び悩んだ』ことからの演出効果だけで、依然平均時給は上昇基調にあるとの見立てだ。

財務省が発表する週次の「対外及び対内証券売買契約等の状況」から、国内の機関投資家は、2月の最終週(2月25日から3月3日)の1週間に海外の中長期債を約1.2兆円売り越した。1月最終週を含めた直近の5週間でのこうした外債処分額は、実に約3.3兆円に到達した。

米金利上昇下の事実上の処分売りだが、先週発表分には更に大きな変化があった。2月の最終週に非居住者(海外の投資家)の対内証券投資(日本の中長期債への投資)額が、約1.3兆円の買い越しと報じられた。

チャート:財務省より筆者作成

こちらは、日銀の出口が意識されるなかで、黒田総裁が再任され緩和の継続が見込まれ、「当分中長期の金利に上昇は見込めない」と判断した投資家のいわば「買い戻し説」が有力だ。

この2月の最終週には、結局、国内・海外の(機関)投資家だけで、約2.5兆円もの日本国内への資金還流が生じていたことになる。こちらの単体では3月期末を控えた特殊要因でもあり、このまま継続というよりややセリング・クライマックスに近い部分もありそうだ。

日銀の金融政策はどうか?既に昨年11月には、黒田総裁が「リバーサル・レート」という理論を使い、金融緩和の長期化がもたらす副作用に言及した。マイナス金利の弊害を暗に認めたわけで、この姿勢の変化は海外の投機筋中心に広く共有されてきた。

今年に入っても、国債買い入れ(輪番オペ)の減額の発表の度に「米ドル/円」は売られてきた。発端は1月9日(火)、「残存期間10年超25年以下、25年超の2つのオペでそれぞれ100億円買い入れを減額」した。更に2月28日(水)にも「残存期間25年超で再び100億円減額」を実施した。

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成

このオペの減額実施を決定するのは日銀の金融市場局、金融政策を担う企画局とは全く別の部署だ。つまり日銀金融政策決定会合での決定判断はこの金融市場局の行動には影響しない。つまり減額は出口でないばかりか、金融緩和からの正常化とは全く異なる。

ただ、こうした「理屈」は広く微妙な政策変化を嗅ぎ取り、いち早く投資行動に移すグローバルマクロのヘッジファンド等には『屁理屈』としか写らない。短期筋だけが反応しているのであれば、「米ドル/円」は売られた後に買い戻しを伴い、直ぐに元の価格に戻っていたはずだ。

黒田総裁は再任、若田部、雨宮両副総裁候補が順に国会内で所信聴取に応じた。「物価上昇率2%を未達」のまま、黒田日銀は2期目に突入するが、これまでこの3名の正副総裁は緩和継続に強い意欲をしている。

2013年当初は、「2年で2%を達成」との半ばコミットであったが、5年が経過する現在、ここまで「7回の2%の達成時期」の延長を発表してきた。この先どうしても緩和の限界は意識されやすい。欧米の中央銀行も、物価上昇率が2%に達しない段階で緩和の縮小を検討した。こうした変化が「理屈」が通用しない一つの理由だ。

チャート : YJFX!MT4チャートより筆者作成

ここにきて「森友学園」をめぐる問題が再びクローズアップされたが、解決には相当の時間を要するだろう。現時点での為替相場への影響は中立に近い。

以上をまとめると、外債の処分売りは季節的要因でもあり一巡感はある。景気の過熱から米労働需給もさらにひっ迫するのだろう。ただトランプ大統領は、秋に中間選挙を控え、貿易赤字の削減には強い意欲を継続する。

日銀の緩和からの出口は、先行する欧米の引き締め期間中であることが最低条件だ。時期が遅れると単独で引き締めを強行することになり、円の独歩高を招きかねない。

「米ドル/円」は年初来高値よりここまで8円強の下落を演じ、ここにきてやや底打ち感が出てきた。問題はこの底打ちで大きくトレンド転換し、再び「米ドル高、円安」に回帰するかだが、筆者は懐疑的だ。

ここから当面戻り歩調を予想しつつも、対米貿易黒字国の円には上昇圧力が継続するという大局観は維持したい。「米ドル/円」の戻りも一時的とみておきたい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2018年3月16日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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