スペシャル・トレンドレポート

円買い需要高まりで下落余地?有望株は「ユーロ/円」!(竹内 典弘氏)

2018年2月16日
チーフディーラー :「米株安が止まらないけど、起点は2月2日(金)の雇用統計という判断で良いのかね?」
アシスタント・マネージャー :「基本それで間違い無いでしょう。ただ米株自体は割高な水準まで買われていた訳で、たまたま相場の神様が幕切れという地雷を当日に設定していただけです」
チーフディーラー :「…。(圧倒されて沈黙)」
アシスタント・マネージャー :「(続けて)既に一部の市場関係者からは、ブルマーケットの一旦の終了を予想するコメントが出ていますね。ここからお話しますよ」

入社からそろそろ1年が経過するこのアシスタント・マネージャー、余りの成長ぶりに、どちらがチーフディーラーなのか分からないような形勢になってきた。

ジェローム・パウエル氏が第16代FRB議長に就任した。過去に目を転じると歴代のFRB議長は就任直後に株価の急落という洗礼を浴びた。グリーンスパン元FRB議長は就任直後の1987年にブラックマンデーを、バーナンキ元FRB議長も同様に2008年のリーマンショックを経験している。

さて、今回の米株急落の発端となった2日(金)の米国の雇用統計、なかでも平均時給の前年比伸び率が上振れしたことが主因だった。既に米国内の失業率は、完全雇用とされる4.6%を下回り4.1%の水準が継続する。イエレン元FRB議長もこうした環境下では、単月の非農業部門雇用者数の増加幅は7.5-12.5万人増で十分としてきた。

雇用統計と同時に発表される前年比での平均時給の前年比伸び率だが、しばらく低迷していた。株価等の資産価格が大きく上昇するなかで、平均時給は伸び悩み、鈍化傾向著しい物価全般をイエレン元FRB議長は「ミステリー」と呼び魔物扱いすらしていた。

今回この前年比平均時給の伸び率が、2009年5月(同年6月発表)以来の伸びである+2.925%と発表されサプライズとなった。しかし「米ドル/円」は株価の下落に対し上昇とややちぐはぐな反応をみせた。

チャート:米労働省より筆者作成

理由は同日の東京時間、日銀により実施された指し値オペ(注)の影響であっさり110円台を回復、上値を110.48円まで伸ばした。ただこうした米株安下の「米ドル高、円安」は続かず、週明け以降はクロス円の売りに押されあっさり反落となった。ここまで米金利上昇下の米株安には「米ドル/円」は教科書通りの下落で反応している。

(注)日銀が実施する公開市場操作。指定する利回りで該当する期間の日本国債を無制限に買い入れる措置。本邦の金利の低下要因、こちら単体では為替の円安要因。

チャート : YJFX!MT4チャートより筆者作成

こうした米株の割高感を意識させる金利上昇は、物価関連指標からだけでなく、その要因を探ると米国債の需給による点も見逃せない(注)。秋に中間選挙を控える与党・共和党はオバマ政権下で削減された国防費を元に戻すと公言。既に下院では1月末に国防費だけで年間100億ドルの増額を盛り込んだ予算案を可決している。

(注)米国債の需給悪化⇒米国債の下落⇒米金利の上昇、という波及経路。

上院では与野党の議席数が拮抗しているため、民主党案も広く取り入れ予算は更に膨張した。トランプ政権発足以来の公約に掲げる減税、インフラ投資からの財政赤字の拡大は必至で、それでも市場は景気拡大⇒企業業績の上振れ⇒株価上昇というシナリオを先取りしてきた。

今後10年で1.5兆ドルの巨額減税が成立したことで、今後米国の税収は単年換算で約1000億ドル減る見込み。既に米財務省は1月31日(水)に2-4月の米国債の発行計画を発表している。この期間だけで実に420億ドルの増額となり10年債も対象となったことから、長期の金利にも上昇圧力がかかった。

長期では政府債務の拡大は更に深刻で、米議会予算局は2028年の政府債務残高をここから約1.8兆ドル増え、約22.2兆ドルとの試算をまとめている。この大半は国債の増発で賄うとみられ、これだけでも単純に金利の上昇要因だ。

チャート : 日経電子版、米財務省、米議会予算局より筆者作成

国内の機関投資家の動向はどうか?本邦の財務省が発表する週次の「対外及び対内証券売買契約等の状況」からは、国内の機関投資家は海外の中長期債を1月1週以降順に、1865億円、9578億円、3932億円、164億円と買い越した後、2月第1週にかけ実に8666億円売り越している。

チャート:財務省より筆者作成

この売り越した期間、「米ドル/円」は概ね109円を中心とするレンジで推移していて、国内の機関投資家からは外債投資に資金を投下するどころか、回収を急ぐ姿勢が鮮明となった。こうしたやや及び腰の姿勢は決算期末である3月末を控え、より色濃くなるものとみられる。

この外債投資に対し消極的な姿勢はどこから生まれるのか。以下は米国の10年債金利の逆数と「米ドル/円」の積だ。筆者独自の指標だが、こちらが示唆するところは簿価ベースでみた場合、ほぼ本邦の機関投資家の米10年債投資が簿価を割れてきている。

これを見る限りクーポン(利金)からの金利収入は別として、買い付けコストは既に下回り現時点で仮に売却した場合、キャピタルロス(注)を計上しなければならない段階まできている。米金利の上昇に伴う米国債価格の下落に「米ドル/円」の下落が追い打ちをかけた格好だ。

(注)債券買入れの価格(簿価)を下回って売却(償還)した場合の損失

チャート:筆者作成

ここまでは「米ドル/円」の売り要因だが、視野を広げると米株の下落に端を発した今回の「円買い」需要の高まり、結論から先に申し上げると、ここからの投資妙味はクロス円、なかでも「ユーロ/円」の売りにありそうだ。

昨年4月のフランス大統領選以降の「ユーロ/円」のラリー、足元で上昇にはやや陰りが見えてきた。既に中期のトレンドラインは割れ、一旦高値形勢後のトップアウトが鮮明になってきた。

チャート : YJFX!MT4チャートより筆者作成

「ユーロ/米ドル」でみても1.25ドル台を2度試し、そのいずれも大台での滞空時間は極めて短時間であった。そもそも振り返れば年初の主要通貨に対する「ユーロ」の急騰は景気指標からの早期利上げ観測の台頭、それも2018年9月資産買い入れ終了後、2018年内利上げと市場コンセンサスの大幅前倒しからであった。

チャート : YJFX!MT4チャートより筆者作成

足元で米国発の株価の修正は、欧州にも広く飛び火し欧州株は調整色を強めている。この結果、行き過ぎた年内利上げを期待した超タカ派シナリオは鎮火し「ユーロ」も調整局面入りとなっている。

年初からの「円買い」をけん引してきた「米ドル/円」であるが、足元でグローバルの株価は一日の振れも依然大きく、短期的な底入れには程遠い状況が継続している。こうした株価の下落局面ではクロス円のダウンサイドは極めて脆弱だ。ここからの下落余地、有望株はクロス円、なかでもここまで調整局面らしい動きの無かった「ユーロ/円」と考えておきたい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2018年2月16日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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