1月25日(木)に欧州中銀(ECB)金融政策理事会が開催される。今年のマーケットの人気通貨であるユーロの上昇についてけん制発言も出てきていて、今週木曜日のドラギ総裁定例記者会見に注目が集まるだろう。
ユーロ高けん制発言
1月16日(火)、3名のECB理事達がユーロ高けん制とも受け取れるコメントをしている。
- ノボトニー・オーストリア中銀総裁(中立)
「the Euro must be observed
最近のユーロ高の動きを考えると、今後も監視が必要だ。」 - コンスタンシオECB副総裁(ハト派)
「I am concerned about sudden movements which don‘t reflect changes in fundamentals.
ファンダメンタルズの動向の変化を反映しない 急激な動きについて、懸念している。」 - ビルロワドガロー仏中銀総裁(ややハト派)
「The recent evolution of the exchange rate is a source of uncertainty which requires monitoring
ユーロの最近の上昇は不確実性の源であり、インフレを押し下げかねないため、監視が必要だ。」
ハト派もいれば中立の理事もいるが、同じ日に一斉に発言が出たのには、驚いた。
ユーロ高を測る
そこで、現在のユーロは「どのくらい強くなっているのか?」それを調べるために、実効レートをチェックしたところ、昨年5月に過去の高値を上抜けし、上昇に弾みがついた形になっていた。

チャート:ECBホームページ
ユーロ単体では強くなっているのが判ったが、各通貨に対する強弱を知りたいので、最新版のECB経済報告書(旧月報)を読んでみると、このチャートが載っていた。黄色いグラフは1年前からの、青いグラフは3カ月前からの変動率(%)。一部の通貨を除き、ほとんどの通貨に対してユーロが強くなっていることが確認できる。

通貨高によるユーロ圏経済への影響は?
これだけユーロ高になれば、当然インフレ率や貿易に影響がでて当然だろう。そこで、通貨高とインフレ率や貿易に対する影響力をまとめると、
- インフレ率
通貨高になると輸入品の価格が下がり、国内の物価も下がり気味となるため、インフレ率は低下する傾向がある。 - 貿易
日本を例に例えると、輸出をして受け取った代金(米ドル)を円に換えるため、通貨高(円高)になると手取りの円の額が少なくなり、輸出業者にとって不利になる。
つまり、ユーロ圏にとっても、昨年からのユーロ高により、インフレ率の上昇は難しくなり、貿易面でも不利になっていることが想定される。果たして現実は、どうだろうか?
ユーロ高とインフレ率
経済報告書に載っていたインフレ率から食料品やエネルギーなどを除いたコア・インフレ率の予想チャートを見てみよう。

チャート:欧州中銀経済報告書(旧月報) 2017年12月28日号
赤く丸をつけた部分が、ユーロが大きく上昇に転じた時期であり、やはりコア・インフレ率はこの時期を境に、低下傾向がはっきりしてきている。
ユーロ高と貿易関係
次は、最近のユーロ高を受け、貿易が落ち込んでいるかについて調べてみよう。このチャートも経済報告書からの引用で、赤い丸の部分はユーロが大きく上昇した時期。驚いたことに、ユーロ高にもかかわらず貿易は拡大していた。

チャート:欧州中銀経済報告書(旧月報) 2017年12月28日号
経済報告書によると、2017Q3の貿易実績は、前年同期比+4.1%となり、6年ぶりの強さとなった。その最大要因は、特に中国とそれ以外のアジア地域への輸出が拡大したことで、この傾向は、今後も継続すると書かれていた。
つまり、インフレ率とは違い、貿易に関しては輸出先の地域の景気が拡大していれば、通貨高であっても影響は限定的であることが判った。
ここからのユーロについて考える
最後に、ここからのユーロについて考えてみよう。
個人的には、今年はユーロが買い通貨と認識しているが、過度のユーロ高は確実にECBからの牽制球が入るはずだ。その理由は、冒頭でも書いたが、通貨高はインフレ率を押し下げる要因となるからである。
ただし、ファンダメンタルズから見ると、ユーロ圏の経済は更に拡大するはずであり、急落するイメージは、なにか政治や財政面でネガティブなニュースが出ない限り、考えにくい。
これは、ユーロ圏のGDPと景況感指数の推移を表わしたチャートだが、景況感の上昇スピードが大きく、GDPが後追いして付いていくイメージを持っている。

チャート:欧州中銀経済報告書(旧月報) 2017年12月28日号
その場合は、ファンダメンタルズ的にはユーロは買い。ただし、インフレの芽を摘むかもしれない通貨高には、ECBは反対。この綱引きが、どうなるのか?そこが今年の相場の醍醐味とも言える。
これはあくまでも私の現在の予想であるが、ドラギ総裁がどのレベルでユーロ高に対し懸念を表明するか?それが今後のユーロの見通しを大きく左右することは間違いないだろう。とりあえず、それが判るのが1月25日(木)開催のECB理事会となるのか?
現時点では、「ユーロ/米ドル」の最初のターゲットとして、1.24ドルHigh/1.25台を想定している。

チャート:筆者作成
松崎 美子氏プロフィール

- 松崎 美子(まつざき よしこ)
- 東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。