スペシャル・トレンドレポート

今年の総括と来年の展望!「米ドル/円」103-118円を想定(竹内 典弘氏)

2017年12月15日

新卒のトレーニー : 「師走も半ばになりますが…」

チーフディーラー : 「今年は「米ドル/円」が余り動かないなか、皆よくやってくれた、君もだ。年末のレビューの時期だが君をアシスタント・マネージャーに昇格させよう」

新卒のトレーニー : 「本当ですか、益々やる気が出ます!」

チーフディーラー : 「それは良かった、さて来年の展望はどうかな?」

新アシスタント・マネージャー : 「やはり継続して焦点は中央銀行の政策の行方でしょうか、微妙な日銀の政策スタンスの変化にも注意が必要です」

新卒でありながら今年の実績を高く評価され、益々やる気がみなぎる新アシスタント・マネージャー、その来年への視点は中央銀行の政策の行方だという。本レポートではそうした見方も一部取り入れ、今年の為替市場の総括と来年への展望をテーマとしてみた。

今年の為替市場は一言でいえば、2016年秋から始まったトランプラリーの継続が焦点であった。しかしその流れは蓋を開けてみると年初に失速、主要通貨に対し米ドル安が継続した。その米ドル安は政策変更を伴わなかった対豪ドルを除くと、対ユーロでは約11.6%と突出している。次いで対英ポンド7.9%、対カナダドル4.3%とこれらはいずれも緩和からの出口を模索した中銀の通貨が続いた。

図表:筆者作成

約2年程、相場らしい相場が無かった「ユーロ/米ドル」は、フランス大統領選でマクロン候補の勝利後に一旦上伸。更に6月27日(火)ポルトガルの保養地シントラで開催されたECBフォーラムでのECBドラギ総裁の「デフレからの脱却を示唆する発言」以降大きく上値を伸ばした。

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成

「英ポンド/米ドル」も6月28日(水)同フォーラムでBOEカーニー総裁の「向こう数カ月以内の利上げ宣言」以降に大きく沸いた。2016年6月の英国民投票後、いち早く利下げを主張した当時のMPC(金融政策委員会)内では最もハト派であったブリハ委員までもが9月15日(金)の講演でタカ派に転じた。

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成

これは通貨の変動要因の多くの部分が、緩和期から初期の引き締め期に移行するうえでの中銀の政策変更が支配し、この政策変更を広く織り込むかたちで通貨の変動が加速することが読み取れる。

2015年12月以降では5度目となる米国の利上げが、現地時間の12月13日(水)のFOMC後にほぼ確実視されている(本レポートは12月13日(水)午前執筆)。中銀の金融政策の要となる利下げ・利上げ、特に後者の利上げは景気の過熱を未然に予防するという観点の他に、景気後退時の利下げ余地の確保というのりしろの側面も有する。

通常住宅ローンで不動産の購入を考える場合、期間が長い程金利は高い。これは長期で借り入れる程、借り手の返済リスク、物価上昇、そして将来の金利上昇等のリスクプレミアムが広く加味される。期間が長い程金利は高くなりこれを金利曲線(以下、イールドカーブ)では「準イールド」と呼んでいる。

図表:筆者作成

利上げを継続することで政策金利、そして政策金利のすう勢を色濃く反映する2年程度までの金利は上昇、一方で10年を超える金利は将来の景気減速を織り込み横ばいから低下を辿ることになる。この結果長期と短期の金利差は縮小する(長短金利差の縮小)。

更に一つの景気サイクルである引き締め期もその末期になると、その政策効果は広く浸透し、短期金利が大きく上昇し長期金利を上回る珍しい「逆イールド」という現象が生じる。

図表:筆者作成

こうして長期金利の上昇は限られ、やがて来る景気後退期(リセッション)を待つ事になる。これは景気のサイクルから致し方ない循環で、株価を筆頭に資産価格は大幅な調整を強いられる。

米国の場合では1990年以降でこの逆イールドという現象がイールドカーブに出現したのは3回、その直後には、日本のバブル崩壊、米国のITバブルの崩壊、そしてリーマンショックという不況に見舞われた。

リーマンショックを的中させたことで一躍有名になったニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授や、その後の金融危機の襲来を警告した元ピムコのCEO、モハメド・エラリアン氏などはこうした景気サイクルからの金利変動を基に金融危機を予想してきた。

話は戻り、今回の2015年12月からの米国の引き締め局面、2016年11月トランプ大統領候補の大統領選勝利以降の米国の2年債金利と10年債金利の金利差の推移は以下の様に推移し縮小が鮮明だ。

チャート:筆者作成

この金利差は、本レポート執筆時点の12月13日(水)午前には0.568%まで縮小している。市場は2018年度に3度の利上げ、つまり合計で75bp(0.75%)の利上げを予想している。仮にこの3度の利上げが完了した場合、2年債の金利は2.5-2.6%付近まで上昇、10年債金利の状況次第ではこの時点で逆転が生じる可能性が高く、場合によってはこの時期は更に早まる可能性もある。

逆イールド出現が見渡せると、市場は将来の景気後退に備えることになる。広範な資産からの現金化の動きが加速し、米国からは資産は流失することになる。ここまでは米ドルの要因だ。

今年7月24日、日本銀行の金融政策決定会合の審議委員として三菱UFJリサーチ&コンサルティングのエコノミストであった片岡剛士氏が就任した。現在まで複数回の日銀会合で追加緩和を主張しているが、会合内では同氏に賛同する動きはみられない。

こうしたなかで、日銀の黒田総裁は11月13日(月)にスイスのチューリッヒ大学で講演を行った。この講演のタイトルは「量的質的金融緩和と経済理論」で、このなかで「マイナス金利導入後、市中銀行の貸し出しの利ザヤの減少を通じて金融の仲介機能が阻害され、金融緩和の効果が引き締めの効果になる」という点に初めて言及した。

片岡委員をけん制する意図もあるとみられるが、これは「リバーサル・レート」という理論で米プリンストン大学のブルネルマイアー教授が提唱している。政策金利が一定水準を下回るとかえって逆の効果をもたらすという理論だ。この理論では行き過ぎた緩和の期間が長くなる程、負の効果が大きくなる。

マイナス金利導入後の初めての通期決算となった2017年3月期の銀行決算は、貸出先が限られる地銀や第二地銀程減益幅は大きく前期比20%近い減益幅を記録した。この影響は都市銀行にも及び、大手3大銀行は合計で今後3.2万人分の業務削減を迫られると報じられている。

黒田総裁は、金融機関の為の政策運営では無いとの大義名分を貫くが、この大幅減益の大半はマイナス金利適用の影響で、ここにきての姿勢の変化は金融機関への配慮を含めた広範な出口戦略、つまり「政策変更への布石」との議論が特に海外の投資家の間で独り歩きしている。

2016年9月に導入が決定されたYCC(イールドカーブ・コントロール)下で、日本の10年債金利が0.15%に達した2017年2月3日(金)、日本銀行は10年債金利の0.11%で指し値オペを実施した。これにより10年債金利の許容上限は0.1%付近であるとの強いメッセージを市場に発した。

チャート:筆者作成

ただこの先を見据えると、このYCCの継続にも黄信号が点滅している。年間80兆円としている国債の買い入れペースの鈍化が鮮明となってきた。金融緩和の軸が量から金利へとシフトしたのは自明だが、買い入れペースはここまで減少傾向をたどり、足元では前年比での伸びは55兆円程度に留まっている。

チャート:筆者作成

来年の4月に5年の任期を終える黒田総裁は、ステルステーパリング(注)を否定する。しかし欧米が量的緩和からの正常化に動く引き締め期を逸すれば、グローバルで日銀単独でのテーパリング期間を作ることになり大幅な円高を招きかねない。

(注)中央銀行がこっそり量的緩和の縮小(テーパリング)に走ること。上述のマネタリーベースの増加幅が大きく鈍化したことで、多くのアナリスト等より指摘され始めた。

以上をまとめると、早ければ2018年度後半にもここからのFRBの複数回の利上げにより、結果として米国では長短金利の逆転を生じさせることが分かった。その先には米国の資産価格、そして株価の調整が続く。日銀単体でみた場合でも2013年4月の量的質的金融緩和の導入から5年を経過することから出口論が活発化しかねない。「米ドル/円」の上昇余地は小さく、2018年の年間レンジは103-118円程度とみている。

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年12月15日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について竹内典弘氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社はヤフー株式会社
(東証一部上場 4689)のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN