スペシャル・トレンドレポート

EUサミット前の12/4がXデー! Brexit交渉のステージは?(松崎 美子氏)

2017年11月29日

11月24日(金)、ブリュッセルではEUと東欧6カ国からなる「東方パートナーシップ」の首脳会議が開催された。そこで顔を合わせたトゥスクEU大統領と英国のメイ首相との間で、非常に重要な会話が交わされ、今週の英国議会は蜂の巣を突っついた状態になっている。

今回のコラムは、「トゥスク/メイ会談」の内容と、ここからのBrexit交渉の困難さについてお伝えしたいと思う。

英国に残された時間は、「10日間」

「トゥスク/メイ会談」で、トゥスク大統領がメイ首相に伝えたことは、たった2行の伝言だった。それは、「あと10日以内に、 交渉ステージ1*に対する返答が欲しい。 【手切れ金】問題だけでなく、アイルランド国境に対する返答もお願いしたい。」

ここで「10日以内」と限定したことには、理由がある。それは、この日から10日後の12月4日(月)に、メイ首相とユンケル欧州委員会委員長、バルニエ主席交渉官とのディナーが予定されているからだ。つまり、「手ぶらでディナーに来ないでね!」というダメ押しとも受け取れる。

筆者作成

*交渉ステージ1 とは?
1)英国がEUから離脱する際にEU側が要求している「手切れ金」について
2)在英EU市民、在EU英国市民の権利と欧州憲法裁とのかかわり
3)アイルランド共和国と北アイルランドの国境問題

最大の難関は「アイルランド国境問題」

英国の憲法では、EU離脱の際に「手切れ金」を支払う義務はないため、議会でも支払いの是非について意見が割れていた。しかし、9月22日(金)にイタリアで演説を行なったメイ首相は、手切れ金支払いの用意があると明言したため、この問題については、ひとつのハードルを越えた感がある。

そうなると、12月のEUサミットでの最大の難関は、ずばり「アイルランド国境問題」となろう。

アイルランドには32の州があり、そのうち26州が1922年に英国領から独立し、アイルランド共和国となった。残りの北部6州は北アイルランドとして英国領に残ることを選択した。アイルランド分裂の裏には、ナショナリストとユニオニストによる争いがあることは、日本でも知られている。ナショナリストとは、カソリック教徒であり、アイルランド統一を支持している。それに対し、ユニオニストは、スコットランドやイングランドから移住してきたプロテスタント教徒が多く、英国連合王国に留まることを希望している。1960年代後半から、これらの2大勢力が紛争を起こし、1998年になってようやく和平交渉が結ばれた。その時以来、南北アイルランド間の物理的な国境がなくなり、自由に行き来できる。

しかし、2016年6月に英国がEUからの離脱(Brexit)を決定してから、「物理的な国境がないこと」が問題となってきた。理由は、英国が欧州単一市場(シングル・マーケット)で保証されている4つの自由を放棄し、関税同盟からも抜ける「ハードBrexit」を選択したからに他ならない。

筆者作成

南北の物理的な国境を設定しなくて済むには、人の移動の自由が保証されているシングル・マーケットへのアクセスが必要となる。つまり、①北アイルランドだけシングル・マーケットに残る  ②南北が統一する  これ以外の選択肢はいまのところ、ない。①は英政府が許可しない。②は何度も話しに出たが、最終的にその可能性はなさそうだ。

アイルランド共和国議会、副首相辞任で不信任逃れる

南北間に物理的な国境を設定したくないのは、アイルランド共和国も同じである。そこで、アイルランドのバラッカー首相は、EUと英国双方に対し、条件を突きつけてきた。それは、「12月14/15日のEUサミットで、南北間に物理的な国境を設定しないという保証を文書で頂きたい。それがもらえないのなら、貿易交渉を含む交渉ステージ2への移行を阻止する。」と主張しはじめたのである。

しかし、強気に出ているバラッカー首相自身も、国内での足元は弱い。アイルランド共和国議会は、同首相が所属するフィナ・ゲール党と無所属議員による少数派政権であり、フィアナ・フォイル党が閣外協力している。このフィアナ・フォイル党は11月23日に、フィッツジェラルド副首相に対し不信任案を提出したが、それに続いてシン・フェイン党も不信任案の提出に動いた。この不信任投票は、11月28日(火)現地時間午後8時に行なわれる予定であったが、同じ日の朝、同副首相は辞任の道を選んだ。もし、辞任せず投票が行われれば結果は「不信任」となることが予想されていただけに、早ければクリスマス前、遅くても来年早々には解散・総選挙が確実視されていた。投票数時間前の辞任劇により、一旦は解散・総選挙のリスクは消えたが、同国政治関係者の話しでは、少数与党の今後の政策運営次第では、来年第1四半期にも、解散するリスクは残るようだ。

データ:アイルランド共和国 選挙委員会

ここからのマーケット

最近の英ポンドは、今までの悪材料が織り込まれ、ジリジリと上昇する展開が続いている。そこで、今週から12月4日(月)のディナーまでの短期的見通しを、このチャートを使って説明したい。

チャート:筆者作成

アイルランド国境問題解決は、かなり時間がかかることが予想される。そこへきて、アイルランド共和国で解散・総選挙の危険性まで出てきた。このあたりの材料は、まだマーケットにきちんと織り込まれていないため、「英ポンド/米ドル」はチャート上のオレンジ色のチャネルの下限(赤い星)である1.3280/90ドルレベルまでの調整を予想する。もし、赤い星レベルが下に抜けるようであれば、ベガス・トンネルが通るブルーの星の1.3210ドル台がターゲット。

赤い星、或いはブルーの星で止まれば、そこから一気に上昇することも十分にあろう。そのきっかけとなるのが、12月4日(月)のディナーでEU/英国両サイドが前向きな結論に落ち着き、12月14/15日のサミットで交渉ステージ2(貿易交渉)へ進むことが約束されることだ。それがはっきりすれば、ピンクのラインが通る1.3450ドル台あたりまで一気に上昇することも可能であろう。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2017年11月29日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
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