スペシャル・トレンドレポート

米国減税法案の行方は? 「米ドル/円」下落リスクに警戒!(竹内 典弘氏)

2017年11月17日

新卒のトレーニー : 「為替が動きませんね、株の変動幅は強烈ですが」

チーフディーラー : 「そうだなぁ~、プロダクトの特性上仕方が無いよ。それではなぜ為替は動かないのか、君の意見は?」

新卒のトレーニー : 「FRB議長人事は片付いたし、何だろう。でもやはり株が魅力的ですね」

チーフディーラー : 「きちんと考えているのか?株が魅力と映るならさっさと部署移動してもらってもいいぞ」

新卒のトレーニー : 「そ、それは…困ります。進まない利上げの織り込み等からでしょうか…」

日経平均株価の変動幅が急上昇している。11月9日(木)には、午前の取引時間中に前日比468円上昇、バブル崩壊後の高値を25年10カ月ぶりに更新した。しかし午後に反転下落となり、上げ幅を全て失いマイナス圏に突入した。この日下げ幅も前日比で390円安まで拡大し、一日の値幅は858円となった。

一方で対比される為替の「米ドル/円」は、衆議院が解散された9月28日(木)以降直近高値まで、日経平均株価が3,019円(+14.9%)の上昇をみせるなかで、同様にわずか2円41銭(+2.14%)の上昇に留まった。この小動きの背景は何だったのか。筆者は「米ドル/円」の売り要因・買い要因の拮抗だと考えている。

図表:筆者作成

では、売り要因から、

今年の夏以降、米国の中央銀行であるFRBの議長人事が市場の注目を集めた。トランプ大統領はイエレン現FRB議長の再選に含みを持たせながらも、最終的に11月2日(木)にジェローム・パウエル現FRB理事を次期議長に指名した。

事前報道等から市場はこのハト派議長の任命を広く織り込み、発表時の市場の混乱等は無かった。イエレン現FRB議長の理事としての任期は14年であることから、理事の職務を継続することは可能だが、現時点では去就を明確にしていない。

仮にイエレン議長が理事までも退任した場合、パウエル氏が議長に昇格することで執行部内では4名の空席が生じる。FOMCで投票権があるのはFRB内7名と地区連銀総裁の5人。この地区連銀総裁のなかでNY連銀のみ常任で、それ以外の4名は毎年持ち回りだが、来年度はここにタカ派の地区連銀総裁が集結する。

図表:筆者作成

FOMCで投票権を持つ12名のなかで既に4名がタカ派となると、「自分は低金利人間」と自称するトランプ大統領は、この空席4名に共和党主流派受けするハト派理事を、セレクティブに任命する可能性が極めて高い。

次期議長となるパウエル現理事は弁護士でウォール街での経験も長く、投資ファンド「カーライル」のパートナーも歴任してきた。ただ歴代のFRB議長の様に経済学博士号を持たず、危機対応への手腕は未知数との意見も多い。

こうしたことから比較的ハト派路線で政策遂行を継続するとの見方から長期金利の上昇幅は限られ「米ドル/円」の上昇余地は乏しかった。

11月3日(金)に発表となった10月の米雇用統計は、失業率が実に2000年12月以来の4.1%まで低下、米景気の堅調さを裏付けた。一方で平均賃金の伸び率はハリケーン後の特需で9月に前年比で2.8%まで急回復したが、10月は再び2.4%に留まり、物価上昇の鈍化が再び顕在化した。

図表:米労働省より筆者作成

2018年末までここから4回と想定される米国の利上げ、「米ドル/円」が今年の最安値を付けた9月8日(金)以降、市場の利上げの織り込みは徐々に回復してきた。FF(フェデラルファンド)金利先物からみた場合、来年末まで足元で2.4回を織り込んでいる。これは年内フルに一回と、来年2018年では既に1.4回を織り込んでしまったことになる。

図表:筆者作成

では、「米ドル/円」の買い要因はどうか?

「米ドル/円」を月別のパフォーマンスでみた場合、11月は過去20年で騰落では12勝8敗と比較的良好な結果を残している。これは企業の年末前の本国への「米ドル」での送金、年末を控えた「米ドル」需要のひっ迫等の理由からだ。2007-2008年はリーマン・ショック後であり、急激な政策金利の引き下げが実施されたことを考慮すれば、この勝率は更に高まっていた。

図表:筆者作成

世界の機関投資家はリスクの高い株式、商品先物、不動産等での運用は極めて慎重だ。その結果、かなりの部分を各国の債券投資に軸足を置くわけだが、日本の場合、日銀のイールドカーブ・コントロール付き量的質的金融緩和の元、金利は低下し日本国債からは十分なリターンを得ることが難しくなっている。

こうしたなかで、大手生命保険各社は、2017年度下期の運用計画を発表した。特筆すべき点は、ここまでの米国の複数回の利上げによる米短期金利の上昇からのヘッジコストの増大で、ヘッジ外債(注)投資の抑制、一方でオープン外債(注)投資への積極姿勢であった。

(注)為替ヘッジ付きがヘッジ外債、為替ヘッジ無しがオープン外債。後者ではヘッジを伴わず、実弾での外貨買い・円売りが市場に発生する。

図表:各種報道等より筆者作成

注意しておきたいのは、このオープン外債投資、各社ともこの先「米ドル/円」が下落した時点で、との条件を加えている。これは海外の企業買収の資金を期日までに手当てするために、外貨買いを急ぎ「米ドル/円」の上昇を加速させるような買い方を想定していない。つまり「米ドル」下落時の緩衝材の役割しか持たないことになる。

では「米ドル/円」決定的な買い要因は何なのか?

筆者は米国の法人税減税の行方次第と考えている。既に米議会下院は11月6日(月)より審議開始、月末を目途に法案の通過を目指す。しかしその後発表された上院案では2019年に先送りと伝わり、両案の隔たりは大きい。

連邦法人税率35%より20%へ減税した場合の減税規模は10年で1.5兆ドル。既にIMF(国際通貨基金)はGDPの1%に相当する景気刺激策を実施した場合、5%の米ドル高要因とするレポートをまとめている。米国の2016年度のGDPは18.6兆ドルで、この1%は1860億ドル。

上述の減税規模は単年では1500億ドルとなり、仮に減税が実現するとそれだけで5%近い米ドル高要因となってしまう。ただ現状こうした減税の行方に懐疑的な見方は依然多い。

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成

以上をまとめると、「米ドル/円」の帰趨はかなりの部分は米国の減税法案の行方にかかっていると判断できる。株式市場は適温相場が継続しているが、「米ドル/円」はここまで極弱材料の綱引きが継続している。

減税法案の通過には期待が高まるが、仮に頓挫した場合の株式市場への影響は大きい。「米ドル/円」は節目の115円にも到達せず、どちらかと言えば今年の場合ここまで「米ドル」売りの材料の方が多い。念の為、ダウンサイドリスクには注意しておきたい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年11月17日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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