1)今年も2016年に続き、risk off関連の報道が多数流されるも...
昨年は、6月のBrexit(英国のEU離脱)や、11月の米大統領選を筆頭に、政治的・地政学的リスクが市場参加者の注目を集めた。
マーケットはそのイベントにむけ、risk off相場となり、「株安、円高」が進行。
しかし、そうした懸念で「株安、円高」に振れるのは一時的。
それらのイベントに向け、risk offに振れた局面はすべて格好の買い場となり、イベント通過後の株は続伸、そして「米ドル/円」も昨年末には118.66円まで急騰した。
そして今年も今月までのマーケットを振り返れば、「フランス大統領選」や「北朝鮮情勢」など昨年同様、risk offの材料が満載。
特に過去2カ月、北朝鮮の挑発に関する報道は毎日のように流れ、マーケットは不安定な展開。
そして、北朝鮮の建国記念日前日の9月8日(金)のマーケットでは「陰の極」という相場展開となる。
つまり、マーケットの緊張は極限に達し、9月8日(金)の「米ドル/円」は一時107.32円という安値まで到達。
しかし、マーケットの不安とは裏腹に、北朝鮮の建国記念日にはなにも起こらず。
結果、昨年同様、risk offによる円高には耐久性がなく、翌週からの「米ドル/円」相場は大きく反発。わずか一カ月で約6円上昇するという急騰相場を演じた。
2)「米ドル/円」・Gold・「ユーロ/米ドル」、そして米10年債金利で9月8日(金)は重要な変化日
まず前述のように9月8日(金)に107.32円の安値に到達した後、大きく方向性を変えたのが「米ドル/円」。そして次がGold。
下図はGoldのチャート。

チャート:筆者作成
Goldも「米ドル/円」同様、9月8日(金)に1,357の高値をつけ大きく反落していて、9月8日(金)が重要な変化日。
下図は「ユーロ/米ドル」のチャート。

チャート:筆者作成
「ユーロ/米ドル」も9月8日(金)に1.2092ドルの高値に到達し急反落。
そして最後のチャートは米10年国債の利回りのチャート。

チャート:筆者作成
米10年債の利回りも9月8日(金)に2.014%の安値をつけ、大きく反発し、本日(10月24日(火))は2.4%を超えてきている。
この中で「米ドル/円」にとって最重要なのが、米10年債利回り。
今年の「米ドル/円」は米10年債の利回りの動きに大きく左右されている。
その米10年債の利回りが、9月8日(金)にボトムアウトし、上昇に転じているのが107.32円まで急落していた「米ドル/円」を6円近く急騰させた要因となっている。
3)オープン外債の増加、「米ドル/円」の上昇トレンドは変わらず、118円台への回復の過程に
加えて、「米ドル/円」の上昇をさらに加速させる要因のひとつに挙げられるのが、本日(10月24日(火))マーケットの注目を集めている「オープン外債(※)の増加」という報道。
(※)オープン外債=為替をヘッジせず、オープンで投資する外債
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日生:新規資金の大半をオープン外債に、国債抑制継続-下期計画
日本生命保険は今年度下期(2017年10月-18年3月)の運用計画で、上半期と同程度と見込む新規資金の大半を、為替リスクを回避しないで投資するオープン外国債券に振り向ける方針だ。分散投資の推進や中長期的な視点での収益向上に取り組む。
24日記者説明した秋山直紀財務企画部長によると、下期の新規資金は上期の約8400億円と同程度を見込んでおり、「国内債券は少なくとも増やせる状況ではない。増加資金で増えるところは外国債券と株が少し」と述べた。
国内金利が低位で推移する中、下期の国内債券は、引き続き国債への投資は抑制。社債などクレジット投資は積み増し、全体の残高は横ばいとなる見通し。上期は残高が400億円減った。運用の中心となる超長期国債の利回りはやや上昇したが、国債投資の積み増し再開の水準については「20年-30年債で1%が引き続きの目線」と述べた。
外国債券の残高は増加を見込む。為替リスクを回避(ヘッジ)した形で投資する外国債券と、ヘッジせずにオープンで投資する外債を、為替や金利水準に応じて機動的に為替リスクのコントロールしながら配分する。
ヘッジ外債の残高は減少を計画。ヘッジコストの上昇が見込まれる中、上期に前倒しで5100億円積み増した。オープン外債の残高は積み増す。積み増す為替水準について、秋山氏は「金利がより高ければ多少、為替水準は幅が広くなる。金利が低ければたとえ円高でも投資するのはどうか」と述べた。上期は2300億円増となった。保有する外貨建て資産全体の通貨配分は米ドル6割、ユーロが2割。
出所 Bloomberg
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マーケットでは、本邦機関投資家が下半期にオープン外債を増やすのではないか?という見方が増えていたが、この「日生」の記事により、その信憑性が高まり、「米ドル/円」の上値余地は更に拡大。
今月に入って、年金を筆頭とする欧米長期投資家による「日本株買い」と、それに伴うヘッジ目的の「米ドル/円」買いも目立っていた。
それに加え、前述のように本邦機関投資家がオープン外債を増やすということは、(外債買いが「円売り・ドル買い)となるため)更なるドル買いがマーケットに投下されることを意味し、「米ドル/円」の上値余地は更に拡大。
昨年同様、年末に向けて上値を伸ばしてきた「米ドル/円」の行方に注目したい。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。