スペシャル・トレンドレポート

11/2英国利上げ濃厚か? 「英ポンド/米ドル」上昇軌道へ!(竹内 典弘氏)

2017年10月20日

新卒のトレーニー : 「6月のECBフォーラムの講演からカーニー総裁は鷹(注1)に傾斜していますね」

チーフディーラー : 「そうなんだが…。ただなぁ~」

新卒のトレーニー : 「ただどうしたんですか。例の“当てにならないボーイフレンド”(注2)ですか」

チーフディーラー : 「よく知っているな。しかし今回は本気だろう」

(注1) 鷹はタカ派、金融政策において引き締め気味の政策を支持すること。
(注2) 利上げを示唆する発言を繰り返しても、実際に行動に出ず英国の議員から“unreliable boyfriend”と揶揄されたことに起因。

イングランド銀行(以下BOE)のカーニー総裁はカナダ人であり、米大手金融のゴールドマン・サックスの出身だ。2008年からカナダ中銀(BOC)の総裁を務め、2012年からはBOE総裁に三顧の礼をもって迎えられた。そのカーニー総裁だが、過去に目を転じると発言内容に一貫性が無く、言動が一致していない。

その発言を一部整理してみると、2014年6月、議会証言等で「英経済の最大のリスクは住宅市場関連、3年で政策金利を2.5%まで段階的に引き上げる。金融市場の想定より早く利上げが行われる可能性もある」と発言した。

2015年7月、「利上げは近づいた、政策金利の変更を開始するプロセスは年明けまでには鮮明になっているはずだ」とも発言しているが、その後に明確なアクションは取られなかった。

英国は2016年6月の「EU離脱の是非を問う国民投票」で「離脱」を選択した。現行の金融政策は同年8月に採用されたもので、政策金利では0.25%だ。BOEはブレグジットに伴う対英投資の凍結、金融街シティの形骸化等に備えやや緩和的な政策を継続してきた。

チャート :筆者作成

こうした背景から、通貨「英ポンド」は主要通貨に対して大きく減価した。通貨安はここまで輸入物価の上昇を招き消費者物価の上昇が加速してきた。英国国家統計局が10月17日(火)に発表した9月の英消費者物価は前年同月比3.0%上昇し、インフレ率は前月に引き続き5年ぶりの高水準を記録した。

チャート : 英国国家統計局より筆者作成

物価上昇から個人消費への悪影響が懸念され、物価安定という大義名分のもと、リーマンショック前にさかのぼる約10年ぶりの利上げが検討され始めた。

BOEは9月の金融政策委員会(以下MPC)で、今後も需給バランスの縮小と物価の上昇の傾向が継続した場合、今後数カ月以内の利上げを示唆した。更にこれ以降の会見・講演等でもカーニー総裁は一貫してこうした姿勢を追認し、市場の織り込みを促してきた。

チーフ・エコノミストのホールデン氏も既にMPCのなかのタカ派のグループに加わることを表明している。政策金利の引き上げを遅らせるリスクを指摘するとともに6月21日(水)の講演のなかで「成長は緩慢ながら、インフレが予想以上の速度で上昇する可能性があり、引き締めが早すぎるリスクは縮小した」と発言している。

9月15日(金)には、昨年6月の英国民投票後にMPCの他のメンバーに先行して利下げ・緩和を主張した最もハト派とされるブリハ委員は、「今後数ヶ月以内の利上げは極めて適切なタイミングだ」と自身の講演を締めくくった。こちらブリハ委員は、講演に先立つ前日のMPCでは利上げに票を投じていなかったことからサプライズとなった。

既にMPCのなかでは、マカファティ、サンダースの両委員は直近の3会合連続で利上げに票を入れていて、次回MPCでも姿勢は不変とみられる。ここまででMPCメンバー9名のなかで実に5名が利上げ票をほぼ固めたことになる。

更に9月にMPCに加わったラムスデン副総裁も、10月17日(火)の議会証言で「緩和の縮小に対するMPC内の多数の意見と、私自身のかつての見解には相違があった」とも言及している。これは①MPC内では緩和縮小に対して大多数が既に支持している ②ラムスデン副総裁は少し前までは緩和縮小は支持していなかったが、今は多数派に移った と解釈できる。

図表 : 筆者作成

英国内の失業率は、欧州債務危機の影響を受けた2011年の8.5%より一貫して低下傾向を示し、欧州各国の景気回復に歩調を揃え足元では4.3%まで低下している。これは実に1975年5月以来の低水準だ。

チャート : 英国国家統計局より筆者作成

元々地震国でもなく、新築物件の供給が少ない英国の不動産市場の需給はダイトだ。市場に売りに出される中古物件の数は限られ、特に景気回復期であれば供給を上回る需要の存在で不動産価格は高騰しやすい。1991年1月を100とした指数で計った場合、既にその指数はリーマンショック前を上回る400に近づきつつある。これは実に30年弱で約4倍に高騰したことになる。

チャート : Nationwideより筆者作成

では金利面からはどうか?ポルトガルのシントラで開催されたECBフォーラムで6月28日(水)、カーニー総裁は「英経済が完全稼働に近づけば引き締めを実施する必要が生じる」と発言した。これに先立つ10日程前に利上げへのパスを否定していただけにこちらはサプライズとなった。

英国の10年債(ギルト)金利はその後やや調整局面を経てここまで大きく上昇している。更に英米の10年債の金利差で見た場合でも、昨年の英国民投票後に一旦大きく崩れた相関は持ち直し、「英ポンド/米ドル」の動きはこの金利差に極めて強い相関を示している。引き締め局面の初期であれば、10年債の政策金利に対する感応度も極めて高い(注)。

(注)筆者は通貨の金利差からの変動は10年債金利がベースと考えている。

チャート:筆者作成

以上をまとめると、年内予定されているMPCは残り2回、11月2日(木)、12月14日(木)となり、このなかでインフレレポートが発表されるのは11月のみとなっている。これ以降のMPCで再び同レポートが公開されるのは来年2月まで待たなければならず、11月2日(木)での政策変更が濃厚だ。

唯一の懸念材料はブレグジット交渉の行方とそれに伴う新規の対英投資の凍結で、EU離脱に伴う不透明感が残るなかでは追加利上げまではまだ検討外かもしれない。しかし利上げへの条件は徐々に整いつつあると判断でき、11月2日(木)前後に向け「英ポンド/米ドル」は再び上昇軌道に回帰するとみている。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年10月20日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
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