スペシャル・トレンドレポート

メイ首相続投に疑問? 英国政権運営は多難か!(松崎 美子氏)

2017年10月12日

英国の秋は党大会の季節である。今年は特にBrexitの先行きを見極めるためにも、10月1日(日)から4日間に渡り開催された与党:保守党の党大会に対する国民の関心は今までになく高かった。

しかし、この党大会に関心を寄せたのは英国民だけでない。昨年の党大会で「ハードBrexit」構想を発表し、英ポンドが急落したことを忘れていない世界中の投資家達も、固唾を呑みながら、どんな発言が飛び出すのか、見守っていたのである。

保守党年次総会での出来事

党大会最終日は、伝統的に党首のスピーチで幕を閉じる。今年の保守党大会も例外ではなく、最終日に当たる10月4日(水)にメイ首相が閉会のメインスピーチを行った。そこで事件は起きた。

スピーチも半ばというタイミングで、党大会のお手伝いに来ていた党員の一人が、スピーチ中のメイ首相に対して、P45書類を手渡そうとしたのである。

日本では耳慣れないP45という書類。これは仕事を辞めた時、或いは解雇された時に会社から手渡される書類で、「離職/解雇証明書」とでも呼ぶべきものである。実際にP45に書かれているのは税金支払いコードだけであり、退職した本人が次の仕事を得た時に、新しい雇用者にこの書類を手渡す義務がある。そうすると、次の会社は新しい雇用者の税金コードをわざわざ調べる必要がないだけでなく、どのくらいの期間、その雇用者が離職していたのかが、すぐ確認できる仕組みになっている。

ただし、イギリス社会では、「P45=無職」という意味に取られるため、メイ首相にP45の書類を手渡すことは、同首相の退陣要求を意味する。私は英国に住んで29年になるが、過去の党大会でこのような出来事が起きたことは、記憶にない。

メイ続投に疑問符

党大会でP45を突きつけられたメイ首相。年に一度の晴れ舞台である党大会最終日にこのような屈辱的な事件が起きたことを受け、保守党内部では、果たしてこのままメイ首相が続投することが、党にとって有益であるか?その議論が進んだ。

はっきりとした道標がないままに、英国のEU離脱に向けEU基本条約50条を行使したメイ首相には、国を引っ張っていく権限が欠如しているという意見。それに対し、EUから離脱した前例がないため、首相は誰であろうが大差なし。それなら、このまま離脱交渉の最終段階まで責任を持ってやって頂くことが妥当ではないか?という意見。英国は今、この選択に揺れている。

当然であるが、国を引っ張っていく首相の立場が危うい以上、Brexit交渉の難航は簡単に予想がつく。それに加え、党大会の期間中も、「悪い条件でEUを離脱するくらいなら、白紙状態のまま、何の条件もなく離脱する方がマシ」という意見が平気で保守党議員の口から出てくることを知ったマーケット参加者が、英ポンド売りに動いたことは、全く不思議ではないだろう。

チャート:筆者作成

辞めるのはメイ首相か?ジョンソン外務相か?

今週に入ってからの報道をまとめると、ここからの保守党が取るべき選択は、2つに絞られてきたようだ。

ひとつは、メイ首相が辞任し、新しい党首(首相)を選出すること。もうひとつは、メイ首相の許可なく、自分勝手なBrexit構想を新聞で発表したボリス・ジョンソン外務相を更迭することである。

新しい党首選出

新党首を選出するためには、党の3割以上の議員が新党首選出選実施を申し出なければならない。現在の保守党では、48人以上の議員の賛成が必要だ。噂によると、30人の賛成は得られたが、必要な48人には達していない。

もう一つの問題点は、Brexit交渉中にも関わらず、6月に解散総選挙で無駄な時間を取られたEU側にしてみれば、今度は党首選で時間を奪われることには難色を示すことは容易に想像がつく。

ボリス・ジョンソン外務相の更迭

党の規定を破り、独自のBrexit観を新聞で披露したジョンソン外務相。10月1日(日)からの党大会で保守党の調和を印象付けるためにも、暴れ馬である同外務相の更迭の噂が何度も出てきた。しかし、メイ氏の首相としての立場が脆弱であるが故に、実現せずに党大会を迎えた経緯がある。

この選択の最大の問題点は、ジョンソン外務相は、保守党内部ではさほど人気がないが、有権者の支持が非常に高い点である。下手なタイミングで更迭をした場合、有権者からのブーイングが起きないとも限らず、それが結果としてメイ首相の人気をさらに下がることにもなりかねない。

一寸先は闇

私が渡英した当時はサッチャー政権最後の時期であった。当時から現在に至るまでを振り返ってみると、特に2010年のキャメロン政権以降、英国政府は対欧州政策で手をこまねいている印象がどんどん強くなってきた。そして、現在のメイ政権はBrexit問題で全く身動きが取れなくなっている。

ここからの英国の政権運営は、かなり多難を極めると考えられる。ある日突然、メイ首相が辞任させられるリスク。何かのきっかけで再度、解散総選挙実施となるリスク。EUとの2年間の交渉期間を全うせず、英国が白紙状態で離脱してしまうリスクなど、数え上げたらキリがない。

ここからの「英ポンド」

英ポンド取引をする時に、政治要因だけを取り上げるのであれば、英ポンドは間違いなく「売り通貨」となる。しかし、通貨の強弱を決めるのは、政治だけでなく、金融政策や経済、財政など多岐に及ぶ。

11月2日(木)は、英中銀金融政策理事会と四半期インフレーションレポートが同時に発表される「Super Thursday」であり、最近のインフレ率の上昇を受け、利上げ観測が高まっている。

それを踏まえて、ここからの英ポンドの見通しを考えたが、下の「英ポンド/米ドル」週足チャートをみる限り、2014年夏からずっと、黄色いハイライトを入れた下落トレンド内で推移していたが、今年1月から水色のハイライトで示した上昇トレンドに変化してきたように見える。

チャート:筆者作成

しかし、普段から通貨の実効レートをチェックしている私にとって、水色ハイライト部分の「英ポンド上昇トレンド」には、非常に違和感があった。そこで、英ポンド実効レートのチャートを作成してみた。

上のチャートの黄色いハイライト時期には黄色の、水色の部分には水色のハイライトをそれぞれ入れてみた。ご覧の通り、水色(「英ポンド/米ドル」上昇トレンド時期)の英ポンド実効レートは特に上昇していない。言い換えれば、「英ポンド/米ドル」の上昇は、英ポンド高でなく、米ドル安による要因が大きかったと理解できる。

データ: 英中銀ホームページ

これはあくまでも私の個人的な考えであるが、不必要なインフレ高騰を引き起こす英ポンド安を英中銀は歓迎していないだろう。特に、実効レートの75以下(チャート上の赤丸)は、できることなら避けたいはずだ。そのため、11月2日(木)の「Super Thursday」に実効レートが75を下回っていれば、政策金利0.25%上げを断行してくると私は考えている。

それまでの「英ポンド/米ドル」の動きとしては、1.28~1.34ドル台のレンジ内での動きを予想する。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2017年10月12日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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