1)円高終焉、「米ドル/円」108円割れが陰の極に、「ユーロ/円」一時134円台に
今年の春の為替市場では、北朝鮮からの軍事的挑発の報道が相次ぎマーケットには緊張感が走り、それに呼応して「米ドル/円」相場は幾度となく、risk offで円高が進行。ただ、今年はどの円高局面でも「米ドル/円」は108.00円を割れることはなかった。
しかし今月に入り再び、北朝鮮からの挑発行為が相次ぎ、9月8日(金)には重要なサポートと思われていた108.00円が決壊。「米ドル/円」は一時107.32円まで急落した。
ただ懸念された「北朝鮮の建国記念日」である9月9日(土)には北朝鮮からなんの軍事的圧力もなかった。
そのため、翌週の「米ドル/円」相場はギャップを明けて108円前半からスタートし、あっという間に反発。これは「ベアトラップ そしてアイランドリバーサル(*注)」というボトムを形成した展開となり上昇トレンドへと回帰する。
(*注)
「ベアトラップ」とは、安値を更新して下落トレンド継続になると思われるも、それが反転上昇すること。「アイランドリバーサル」は、窓を開けた後に相場が反転し、再び窓を開けて元の水準へ戻った際に形成される「離れ小島」の様なチャートの形のことを言います。

YJFX! MT4チャートより筆者作成
本レポート執筆時点(9/27)での「米ドル/円」は112円台前半で推移。
前述のようにボトムをつけてダウンサイドリスクが限定的となった「米ドル/円」であるが、過去数カ月にわたって114~115円がレジスタンスになっている。このレベルを抜けないと上昇トレンドへと回帰できす、再び108~115円のレンジに戻ってしまう可能性を残している。
「米ドル/円」がこのレベルを大きく上放れするにはクロス円の上昇が不可欠。
このレポートで何度か紹介した「ユーロ/円」は、2カ月かけて200週移動平均をブレイクしたことから上放れしていて、一時134.41円まで急伸。しかし9月中旬から「ユーロ/米ドル」が1.2000ドル台を攻めあぐね、9月24日(日)のドイツの総選挙を終えてから反落。
結果「ユーロ/円」はいったん調整に入っている。
そしてユーロクロスの反落の中で個人的に注目しているのが「ユーロ/英ポンド」。
2)game changerとなった「ユーロ/英ポンド」の急落に警戒、「英ポンド/円」は節目の148円をブレイク、上値余地が急拡大
今月初旬からじわじわと値を下げていた「ユーロ/英ポンド」であるが、0.9000ポンドを割り込んだことで下落が加速。
「ユーロ/英ポンド」急落のきっかけになったのが9月14日(木)のBOE金融政策委員会がタカ派だったこと。その声明文では「今後数カ月で金融緩和の巻き戻しが適切になると判断している」との表現があったことから、「ユーロ/英ポンド」は急落。
この「ユーロ/英ポンド」の急落は「ユーロ/円」の下落を誘引するが、逆に「英ポンド/円」を押し上げることになる。
下図は「英ポンド/円」の週足。

YJFX! MT4チャートより筆者作成
「英ポンド/円」は148円ミドル(図中148.46円:2016年12月15日)が重要なレジスタンスだったのであるが、それが決壊すると、「英ポンド/円」はあっさり150円台を回復。一時152.86円まで急騰している。
加えて注目すべきは週足の雲の位置。
今年はずっと(クローズベースでは)週足の雲の中におさえこまれていた「英ポンド/円」であるが前述の急騰で、雲の上限をクリアに突破したことから、「英ポンド/円」の上値余地が大幅に拡大。
ハードブレグジット懸念を背景にマーケットにはまだ英ポンドのショートが多数残存しているとみられ、これが巻き戻されることも予想され、「英ポンド/円」は160円にむけて続伸中。
ここで「英ポンド/円」の長期の動きを振り返ってみると、2015年から2016年にかけてブレグジットという歴史的イベントを背景に「英ポンド/円」は195円から124円と約71円の大暴落。この影響は「米ドル/円」にも大きな影響を与え、125 円から99円まで急落している。
今回148円をブレイクした「英ポンド/円」が160円にむけて上昇を続けるとすれば、108円でボトムアウトした「米ドル/円」の上昇を押し上げる要因になる公算が大。
重要なレジスタンスである148円を上抜けて続伸する「英ポンド/円」と、108円でボトムアウトした「米ドル/円」の行方に注目である。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。