スペシャル・トレンドレポート

「米ドル/円」弱材料揃い踏み! 秋に向け年初来安値更新か?(竹内 典弘氏)

2017年8月18日

チーフディーラー : 「(先月の続編)夏休みは楽しめたかい」

新卒のトレーニー : 「ハワイの青空が印象的でした」

チーフディーラー : 「7月のチームの収益は過去最高で印象的だった。休んでいた君以外は皆すごいパフォーマンスだったぞ。君は収益改善メモを書くように」

新卒のトレーニー : 「は、はい。秋に向け「米ドル/円」を丁寧に売ろうかと」

休暇期間中に利上げが見込まれた通貨群が大きく上昇してしまい、機会損失に遭遇してしまったトレーニーと、最高収益を叩き出し更にテンションが上昇基調なチーフディーラーとの人間模様のコントラストが鮮明だ。

さて、トランプ政権の迷走が止まらない。7月21日(金)にはスパイサー報道官が辞任。28日(金)には大統領選を共に戦ったプリーバス主席補佐官を更迭。そして31日(月)に広報部長を解任されたスカラムチ氏に至っては、在任期間はわずか10日間だった。

トランプ大統領就任から半年が経過し、ここまでの実績は複数の大統領令に署名した程度で、看板政策の一つ「オバマケア代替法案」の議会通過も頓挫している。閣僚・政府高官の任命も大幅遅延していて、任命を辞退する候補者が続出、ポストは埋まらず、様々な意思決定の足かせとなっている。

大幅な法人減税等のリフレ政策への期待は日々色褪せ、低迷する物価関連の指標も回復せず、米長期金利は低下基調、結果ここにきて米ドル安が鮮明となってきた。ドルインデックス(注)でみると月足ベースの終値では既に支持線を一時的に割り込んでいる。

(注)ドルインデックスの構成比率はユーロの比率が57.6%と突出、ほぼ「ユーロ/米ドル」の変動の縮図とも解釈出来る。

図表:筆者作成

チャート:筆者作成

「米ドル/円」でみた場合、今回の米ドル安の起点は7月11日(火)のイエレンFRB議長の議会証言からだった。14日(金)発表の小売売上高も大きく下振れ、その後の北朝鮮情勢の悪化、トランプ大統領・金正恩委員長の応酬もあり、完全にリスクオフモードに入ってしまった。

チャート : YJFX! MT4チャートより筆者作成

米国の雇用関連の指標は非農業部門雇用者数(以下NFP)の増加幅、失業率だけで判断すれば極めて良好だ。特に前者の場合、既にイエレンFRB議長は「NFPの伸びは単月では7.5万-12.5万人で十分」と言及していて、後者でも7月は5月に並ぶ4.3%まで低下してきた。

FRBは完全雇用と判断する水準を失業率4.6-4.7%に設定していて、これを下回る水準を継続している。一方で平均時給の伸び率は7月の結果でも前年比で+2.5%と弱い。

リーマンショック前の2006年に退任したグリーンスパン元FRB議長は任期切れまでに計425bp(4.25%)と17回の利上げを実施したが、この時の平均時給の伸びは3-4%に達していて、当時と比べ現在の平均時給の上昇率の鈍化は鮮明だ。

過去に目を転じると、失業率が4.5%を割るとどのような推移があったのか?1965年7月に4.4%(前月比-0.2%)と1960年代で初めて4.5%を割れた。その後1966年2月に4.0%を割れ3.8%、以降一度も4.0%に戻る事無く3%台が定着し、1969年に3.4%まで低下した。

一方で消費者物価は、1965年7月はわずか1.6%、その後1966年8月に3.5%(前月比+0.7%!)を記録すると以降はほぼ一本調子で上昇し、1969年12月に6.2%に到達している。その後の両者の推移を観察すると失業率4.5%割れと整合的な消費者物価の水準は4%付近とみられる(注)。

(注)通常、失業率と消費者物価の間には逆相関がありフィリップス曲線で表される。

グラフ : 筆者作成

ただ今回この失業率が4.5%を下回る期間が継続したとしても、ここまでの消費者物価の上昇は期待出来そうも無い。原油価格を筆頭に資源価格は低迷、国境を超える安価な労働力の流入、人工知能・ロボットの広がりによる技能を求められる求人の減少、ネット通販拡大による雇用環境の変化等、物価の押し下げ要因には枚挙に暇が無い。平均時給、並びに消費者物価の低迷・伸び率鈍化は利上げ観測の後退、米ドル安に直結する。

ダウは8月上旬にかけて10日連続で最高値を更新した。ではこの先はどうか?ダウをこの100年の月別のパフォーマンスでみた場合、9月が-0.88%と一番悪い。こうしたデータは投資家に広く共有されていて、9月が悪いと分かっているなら「8月に前倒しで処分してしまえ」と考える投資家が存在しても不思議では無い。

各種統計より:筆者作成

株式市場からの換金売り、資金流失はリスクオフ、つまり既に建てられた既存のポジションの巻き戻しであるから、「米ドル/円」では売りと判断できる。

では金利面ではどうか。通常通貨の変動は当該2国間の金利の差である程度説明することが出来る。日本の場合、YCC(イールドカーブ・コントロール)下で実質金利が固定されていると考えれば、「米ドル/円」の金利面からの変動要因は米国の金利のみということになる。

以下は「米ドル/円」と米国の2年債と10年債の金利差の推移だ。「米ドル/円」の変動要因はこの金利差であったことがわかる。

チャート : 筆者作成

昨年11月、米大統領選でトランプ氏勝利後のトランプラリーで金利差が拡大、それに伴い「米ドル/円」は上昇、金利差のピークに先立ち12月15日(木)に118.66円の高値を示現した。

この期間、2年債金利は0.906%より1.275%へと36.9bp(0.369%)、10年債金利では2.150%より2.611%へと46.1bp(0.461%)の上昇をみせた。つまり「米ドル/円」は2年債・10年債どちらの金利上昇にも反応したと考えられる。

ではそれ以降はどうか。その後6月14日(水)に底入れするまで金利差は大きく縮小した。短期金利のすう勢を色濃く反映する2年債金利はFRBの2度の利上げの影響でこの期間は1.275%より1.335%へと6bp(0.06%)の上昇をみせた。一方10年債金利は2.611%より2.127%へと48.4bp(0.484%)大幅低下、「米ドル/円」も大きく下落した。

この全期間(11月から6月)を通じて2年債金利は上昇しているが「米ドル/円」は118.66円をピークに下落している。つまり「米ドル/円」の変動要因は10年債金利であったことが読み取れる。FRBの度重なる利上げにも「米ドル/円」が上昇しなかった裏にはこうした背景があったのだ。

ではなぜ10年債金利は上昇しなかったのか。これは将来の景気減速を織り込んで金利が低下を始めた証であり、景気拡大がこの7月で9年目入りした米景気にやや黄信号点灯と判断出来る。

以上をまとめると、連騰したダウは季節的にピークアウト目前、鈍化傾向著しい物価関連の指標を背景に長期金利は低下基調、米利上げ観測もやや後退、ここに北朝鮮という地政学リスクが再び加わってしまった。秋に向け「米ドル/円」の戻りは胸突き八丁で、年初来安値更新の展開が予想される。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年8月18日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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