円キャリートレード、「ミセス・ワタナベ」の復活!?
円キャリートレードとは、低金利である円を借りて、高金利通貨を買うトレードの事で、2004年から2007年くらいにピークとなったトレード手法である。当時、日本においてはバブル崩壊の影響が長引き低金利が続いていたが、米国・欧州・オセアニアを中心に好景気となり、世界の金融市場は高金利に向かっていた。「米ドル/円」を含めたクロス円のロングを保有していると、スワップポイントを得ることができ、対円(日本)に対しての金利差からクロス円全般に上昇トレンドを形成していた。当時、東京時間と言われるAM8時くらいからPM3時くらいの時間帯は、クロス円全般が下がりにくく上昇する傾向となっていた。海外のディーラー・マスコミの間では、不思議な現象と言われだし、この原因を探っていくと、日本のFX市場の拡大時期で、リテールと言われる一般投資家が多数参加、主婦やOL・サラリーマンを中心としたクロス円の買い注文が為替市場を動かしていることが判明した。証拠金(少額)でレバレッジをかけたFXの取引量は、当時のインターバンクの東京時間の取引量の半数を超えるとも言われていた。このことが、やがて世界中に伝わり、日本のFX個人投資家群を「ミセス・ワタナベ」という呼ばれるようになった。円キャリー中の値動きの特徴は、緩やかな上昇となり、その上、中・長期保有でスワップポイントがたまることから、一般投資家が、買い時を多少間違ったとしても、最終的に利益になりやすかった。書店の金融コーナーでは、主婦やOLが出版したFXの必勝本が平積みで多数販売されていて、「FXバブル」ともいえる賑わいとなっていた。2007年以降は「サブプライムローン問題」・「リーマンショック」から派生した金融危機で、マーケット全般が暴落し始め、先進国の金融政策が利下げ方向となると、書店のFX必勝本は姿を消し、「ミセス・ワタナベ」という言葉も使われなくなっていった。
当時と現在では、色々な面で状況が違うが、日本と他の先進国にける金融政策差は、「FXバブル」時期と似ている。米国をはじめ欧州各国が、金融正常化を進め始めているが、日本だけは量的緩和政策継続を表明している。金融政策格差が広がれば、クロス円のスワップポイントが拡大するという点でいえば、当時と同じ背景といえるのではないか。「ミセス・ワタナベ」が、ニュースに再登場し始めるのも時間の問題かもしれない。
対円金利差の拡大の経緯

チャート:筆者作成
先月6/14(水)のFOMCで米国の追加利上げが決定し、なおかつバランスシートの縮小計画が発表された。その後、6/28(水)に、ポーランドで開催された、欧州中銀年次フォーラムでは、BOCのポロズ総裁・ECBのドラギ総裁・BOEのカーニー総裁らが、金融政策の正常化へ向けて言及。しかし、日銀の黒田総裁は、日本の金融政策に関して、量的緩和姿勢を崩さず、7/7(金)には、金融緩和継続・指値オペを公表。対円との金融政策格差が鮮明になってきた。これらを背景としてか、「米ドル/円」も6/14(水)に108.83円の安値を付けた後7/10(月)には114円台を回復し、上昇トレンドを形成し始めた。先進国の政策金利というものは、突発的に変更されるケースはまれである。つまり、暫くは対円金利差の拡大となり、円キャリートレードの流れは継続されると予測する。
IMMの円先物も円売り継続

データ参照:CMEホームページより筆者作成
世界的な投機筋においても円売りポジションの比率が高まっている。シカゴマーカンタイル取引所が公開するポジションでもわかるように、米国が金融引き締めに入ると、対円のポジションは円買いから円売りにシフトしてきている。米国では今後も追加の利上げ観測があり、バランスシートの縮小(金融正常化)に着々と舵を切り始めている。対する日本は、金融緩和政策継続となっており、今後暫くの間は、日米金利差は拡大する。また、欧州中銀も金融正常化に進んでおり、欧州通貨に対しても円は売られる傾向が強くなる。世界的なヘッジファンドなどは、手口が公表されることを嫌い、IMMを利用しないとも言われているが、IMMのポジション推移を参考にしているインターバンク参加者は多いことから、ベンチマークの一つとなっている。
「米ドル/円」は、中長期的に118円台を目指す

チャート:筆者作成
「米ドル/円」をテクニカル分析すると、今年4/17(月)の安値108.13円と6/14の安値108.83円からなる「Wボトム」を形成中である。ネックラインが5/11(木)の高値114.36円となっていて、7/11(火)には、ザラバではあるが114.49円とこのネックラインを突破した。しかし終値ベースでは113円台となったため、「Wボトム」完成とはならなかった。一般的には「Wボトム」を形成した場合の上値目標は、最安値からネックラインの値幅(6.23円)の2倍(12.48円)の120.59円と言われている。その手前には、118.66円から108.13円の下げ幅に対する61.8%戻しの114.64円や3/10(金)の高値115.51円が待ち受ける。しかし、これらを超えたときには、2016年の高値118.66円が意識され、118円台の可能性も出てくる。
一目均衡表は三役好転中

チャート:筆者作成

チャート:筆者作成
一目均衡表の分析の中に、「三役好転」・「三役逆転」という売り買いのシグナルがある。三役好転の条件は、①基準線<転換線、②遅行線>26日前ローソク足、③現在のローソク足>雲となっていて、三役逆転の条件とは、①基準線>転換線、②遅行線<26日前ローソク足、③現在のローソク足<雲である。現在、「米ドル/円」・「ユーロ/円」・「英ポンド/円」・「カナダドル/円」の日足ベースでは、4通貨ペアとも「三役好転」の買いシグナルが点灯中となっていて、週足ベースでも「ユーロ/円」と「カナダドル/円」が「三役好転」のシグナル点灯中で、「米ドル/円」と「英ポンド/円」が、シグナル点灯手前となっている。週足ベースでのシグナル点灯は、かなり強い(長い期間)サインと言えることから、円キャリートレードは、まだ続きそうだ。
遠藤 寿保プロフィール

- 遠藤 寿保(えんどう としやす)
- 98年日本初のFX事業開始から、Web広告やセミナー運営、リスク管理啓蒙などFX業務全般に携わる。数多くの一般投資家と接しながら、現在、YJFX!にてFXエバンジェリストとして情報配信・FXコラム執筆・セミナー活動等を行っている。