スペシャル・トレンドレポート

米を追う二番手が登場! 欧、加、英、各国通貨上昇か?(竹内 典弘氏)

2017年7月13日

新卒のトレーニー:「ここにきて中銀総裁の発言が市場を動かしているのでしょうか」

チーフディーラー:「そうだね、(中央銀行の)緩和局面からの出口だからね」

新卒のトレーニー:「出口~?ま、まさかこの夏は忙しくなりますか」

チーフディーラー:「出口は緩和局面の終了、つまり引き締めへの移行期だよ、この夏の市場は熱くなりそうだし、動きそうだね。君の夏休みは返上だな!」

新卒のトレーニー:「(かなりサプライズの様子)休暇予定はかなり前から彼女と約束しておりまして…、そ、それだけは~♪」

これは夏休みを控え、休暇期待炸裂中の新卒社員とチーフディーラーとのやり取りだ。話の内容からして、チーフディーラーが感じる市場の大変動を伴う躍動感と、新卒トレーニーの市場の変動が自身の夏休みのリスクと判断するそのコントラストが鮮明だ。

ここにきて引き締めでは独走する米国を追う二番手に、カナダ、欧州、英国(中銀総裁の発言順)と複数の中銀が名乗りを上げた。中央銀行の政策金利の変更は、排他的な為替の変動要因だが、緩和期からの引き締め転換期(その逆も)ではそのインパクトは強烈だ。

6月8日(木)のECB理事会後の記者会見でドラギ総裁は、「資産買入れ額の段階的縮小(テーパリング)や、現行マイナス0.4%の預金ファシリティ金利の引き上げに関し、今回の理事会での議論は無かった」と再び市場が期待する出口への思惑を封印した。

その約3週間後の6月27日(火)、ポルトガルのシントラで開催されたECBフォーラムでドラギ総裁は、「デフレはインフレに変わった、物価の下落要因は一時的」と変身した。ややサプライズで市場は即ユーロ買いで反応した。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

ドラギ総裁は、欧州債務危機のなかで、2011年に利上げに踏み切り混乱を招いた過去がある。これがトラウマになったのか、毎度のECB理事会後の記者会見でドラギ総裁は、記者からの直球・変化球を交えての緩和出口に関する質問には、「議論は無い」と常に一蹴してきた。

チャート:筆者作成

原油価格は2015年初頭にかけて高値より60%近く下落し、消費者物価指数(CPI)は大きく落ち込んだ。昨年12月のOPEC減産合意後も、ここまで瞬間風速で戻り高値より約22%の下落を演じた。こうしたなかでも、今年に入りCPIの回復は目覚ましく、独では一時的に中銀の目標とする2%を上回った。独、ユーロ圏、英ではCPIの推移は直近10年では以下の通りとなっている。

チャート:独連邦統計局、ユーロスタット、英国家統計局より筆者作成

更に仏大統領選を無難に通過し、5月に欧州委員会は域内の成長見通しを上方修正した。欧州のなかでも北部欧州は総じて景気は良く、不動産価格に目を転じると、独の中央銀行、ブンデスバンクは昨年2月の月報で、「住宅ローン金利の低下で独の不動産価格は2010年以降毎年6%以上上昇している」と報告している。

仮に現在までこの上昇傾向が継続していると仮定すると、2010年以降ここまで実に60%以上の上昇率で、バブル以外の何物でもないと判断できる。現行の預金ファシリティ金利がマイナス0.4%の妥当性に大きな疑問符を付きかけていた。

一方で、米国を筆頭に賃金上昇率は鈍化し、中銀を悩ませている。直近の統計でも米国の賃金上昇率は前月比で+0.2%と伸び悩む。背景は何か?BIS(国際決済銀行)は6月に発表した年次報告で、賃金上昇率の鈍化はグローバルでの安価な労働力の流入、ネット通販を代表する小売の雇用構造の変化等を挙げている。

ただこうしたなかでも、BISは中銀の低金利継続に起因する過度な借り入れ等がリスク要因と警鐘を鳴らしている。ここにきての複数の中銀が引き締めを示唆した背景には、中銀内で広くこれと同じ議論がなされていた可能性が極めて高い。

為替の反応は中銀の金融政策に寄るところが大で、特に緩和初期、引き締め初期では長期金利にも大きな変動圧力が掛かり、為替相場を大きく変動させる。欧州の金利上昇は、「ユーロ/米ドル」では米独間での金利差縮小となりユーロ高に直結する。

チャート:筆者作成

足元での米独金利差の10bp(0.1%)の縮小は、「ユーロ/米ドル」相場の約200ポイント(200pips)の変動要因。これを前提にすると、「ユーロ/米ドル」相場が1.2000ドル、1.2500ドルに到達するためには、理論上金利差はそれぞれ1.435%、1.185%へ縮小するだけで可能だ。

チャート : 筆者作成

さて、6月12日(月)にはカナダ中銀(以下BOC)のウィルキンス副総裁、翌13日(火)はBOCポロズ総裁より、「2015年に実施した利下げの効果は達成できた。現在の政策金利は驚くほど低い」と伝わった。地ならしは完了済みでいつ利上げに踏み切ってもおかしくない状態となった。

こうしたなかで7月12日(水)にはBOCが政策金利を発表する(本レポートの執筆は7月11日(火)朝)。市場参加者の見方はやや割れていて、今回は声明文で次回の利上げを強く示唆し、最初の利上げは10月がメインシナリオだ。

いずれにしても、引き締め局面入りは通貨カナダドルの上昇には援軍、6月のポロズ総裁発言前の水準1.33カナダドル台はこの先益々遠くなりそうな勢いだ。

チャート :筆者作成

6月28日(水)には上述ECBフォーラムのなかで、イングランド銀行(以下BOE)のカーニー総裁は、「英経済が完全稼働に近づけば引き締めを実施する必要が生じる。向こう数カ月以内に利上げの可能性」と述べた。

カーニー総裁はこれに先立ち20日(火)には利上げへのパスを完全に否定していただけにサプライズで、直後の反応は英金利上昇、英ポンド上昇となった。

上段のCPIの推移を見れば一目瞭然だが、元々英国は物価が高い。訪英、在英経験のある方ならお分かりかと思うが、会食等に出かけても英ポンドと米ドルが等価位の感覚でないと高すぎて足が向かわないという。

ここに昨年はブレグジットとなり急速な英ポンド安が進行した。英国は潜在的に経常赤字国、つまり輸入品に頼るところが大きい。足元でCPIは2.9%まで上昇し、カーニー総裁の発言はこれを裏付ける内容となった。

こちらもリーマンショック後の低金利は継続している。政策対応はやや後手に回っているとも判断され、引き締め初期では通貨高に直結する可能性が高い。

チャート :筆者作成

以上まとめると、米を筆頭に物価指標である賃金上昇率が高まらないなかでの引き締め路線への転換は、明らかに低金利がもたらす副作用を意識した政策判断だろう。特に「ユーロ/米ドル」はこの2年程相場らしい相場が無くややマグマが蓄積している。ユーロを筆頭に政策変更に伴い、年後半にかけて、引き締め二番手の通貨群はアウトパフォーム(注)(≒上昇)すると判断できそうだ。

(注)通貨ならその他の通貨に対し、株式等銘柄ならその他の銘柄に対し一定期間経過後の収益率が上回っていること。端的にパフォーマンスが良好ということ。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年7月13日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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