スペシャル・トレンドレポート

ECB注目の「金利正常化」は、 思ったより遅れる可能性も?(松崎 美子氏)

2017年7月5日

先週ポルトガルで欧州中銀(ECB)年次フォーラムが開催された。そこで、ドラギECB総裁とカーニーBOE総裁が、超緩和政策からの脱却(金利の正常化)について発言し、それがユーロと英ポンドの上昇を引き起こした。

チャート:筆者作成

今回のコラムでは、今まで私達が経験してきた【金融引き締め(利上げ)】と、現在直面している【金利の正常化】の違いについて考えてみたい。

金融引き締め(利上げ)

通常、中央銀行が政策金利の方向性を変更した場合、1度や2度で終わることはなく、変更直後からかなり頻繁に利上げ/利下げが行なわれるのが普通である。

2008年のリーマン・ショック以降、主要国の中で一番最初に政策金利の方向性を変更し、利上げに動いたのはアメリカであるが、2015年12月の最初の利上げから19カ月経った現在に至るまで、利上げ回数はわずか4回、利上げ幅は合計1%に留まる

それ以前の利上げサイクルを調べると、FOMCでは2004年6月30日から利上げに動き、19カ月の間に15回、合計3.75%の引き締めを実行している。その当時のGDPとインフレ率を見ると、利上げに動く直前に7%近くまでGDPが伸びていて、景気は相当良かったと思われる。そして実際に利上げに動いた当時のインフレ率は、3.3%であり、米連邦準備理事会(FRB)が設定しているインフレ・ターゲットの2%を優に超えていた。

チャートとデータ: 米商務省ホームページ
米労働省労働統計局ホームページ

念のために同時期の「インフレ期待値」を調べてみると、やはりGDPが上昇するのと歩調を合わせ、インフレに対する期待値も上がっていた。

チャート: 米セントルイス連銀ホームページ

このように、過去に経験してきた【金融引き締め(利上げ)】時は、利上げサイクルに入る前に景気過熱感が出ていて、一度利上げに動いてからは立て続けに利上げが続いていた。

マイナスからゼロへ【金利の正常化】

それでは、現在私達が直面している【金利の正常化】について調べてみよう。

主要国の中央銀行でマイナス金利政策を導入しているのは、ユーロ圏と日本。私が住む英国や米国では、限りなくゼロに近いレベルにまで下げたが、マイナス圏には突入していない。そもそも政策金利がマイナス圏内に落ち込む事は一般的でなく、デフレ・リスクを回避するための一時避難的措置と考えられる。つまり【金利の正常化】とは、一時避難的措置をニュートラルに戻す作業であるため、金融政策理事会が開催されるたびに次から次へと利上げを実施することは期待できないだろう。

どの国にも、経済成長率やインフレ率、失業率などを元に計算した「居心地の良いニュートラルな金利水準」というものがある。2007年から始まった世界規模の金融危機前までのアメリカのニュートラル金利水準は、4~4.5%あたりと言われていたが、リーマン・ショック後のデフレ・リスクのおかげで「ニュートラルな金利水準」そのものが大きく変わった。

2015年12月に一足お先に金利の正常化に動いたアメリカではあるが、そのペースは2004年当時と比較すると驚くほど穏やかであることは、チャートを見ると一目瞭然だ。

チャート: 米労働省労働統計局ホームページ

インフレ期待値を見ても、インフレ目標の2%を下回る状態が続いていて、全く過熱感は見られない。

チャート: 米セントルイス連銀ホームページ

ECBの【金利の正常化】は思ったより遅い?

2015年からのアメリカの利上げは、【金融引き締め】ではなく、あくまでも【金利の正常化】であり、現在も道半ばであることが判った。それでは、舞台をヨーロッパに移し、先週マーケットを騒がせた欧州中銀(ECB)の【金利の正常化】は、いつ頃になるのかを考えてみたい。「ユーロ/米ドル」が2017年高値を記録するきっかけとなった6月27日(火)のドラギ総裁発言直後、ECBが1年後に利上げをする可能性は、33%から52%まで一気に跳ね上がっている。

まず最初に、7月3日(月)に発表されたユーロ加盟国の製造業PMIを見ると、かなり強い数字が並んでいる。PMI(購買担当者景気指数)はGDPの先行指標とも言われていて、これだけ強い数字が今後も続けば、今年のユーロ圏の経済成長率は予想以上に伸びる可能性が出てきた。

データ: Markit社ホームページ

しかし、肝心のインフレ率に目を向けると、ここにきて若干緩んできており、あまり力強さは感じられない。

チャート: ECB経済報告書(旧月報) 2017年6月号

これらを総合し、自分なりのタイムラインを作ってみたが、いくら頭をひねってもECBが【金利の正常化】に向けた利上げを実行するのは、早くて来年末となってしまった。ただし、これはあくまでも私個人の見通しである点は、考慮願いたい。

ここからのユーロ

先週同様のユーロ高が今週続くとすれば、7月6日(木)に発表される6月8日分・「ECB金融政策理事会」の議事要旨内容が、驚くほどタカ派となっていた場合であろう。

ユーロの実効レートを見ると、過去のサポート/レジスタンスとなっている97.90/98.30の手前で止まっている。もし、これが上に抜けたとしても、黄緑の99.50付近で一旦止まると予想している。

チャート: ECBホームページ

次にユーロ/米ドル週足にベガス・トンネル(144/169EMA)を載せてみると、現在はちょうどトンネル (黄緑の丸のレベル:1.13ドルMiddle/1.14ドルHigh) の真ん中にきたところだ。

チャート: 筆者作成

ここからは、一旦 1.1300ドルを試すイメージであり、万が一、下に抜けた場合は、4時間足のチャートのベガス・トンネルが通る1.12ドルLow(オレンジの丸の部分)を意識したいと思う。

チャート: 筆者作成

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2017年7月5日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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