1)バランスシートの縮小というFOMCの決断
このところの米経済指標はまだら模様となり、米長期金利は低迷。
呼応して、過去数カ月、総じて米ドルは軟調に推移していた。
米経済を牽引するはずの「トランポノミクス」も、トランプ政権による「パリ協定」からの離脱決定をきっかけに、米経済界とトランプ政権との蜜月も終了。
結果、「トランポノミクス」への期待感は大きく後退。
昨年末のトランプラリーによる米ドル高も終焉に近いという論調が増えてきた局面でマーケットは6月14日(水)のFOMCを迎えた。
そしてFOMCの決断により、再び米ドルは大きく上昇へ。
FOMCの決断とはバランスシートの縮小。
●米FOMC、利上げ決定 年内にバランスシート縮小開始へ
米連邦準備理事会(FRB)は14日(水)まで開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、継続的な経済成長や労働市場の堅調さを踏まえ、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.0-1.25%に引き上げることを決定した。また年内にバランスシートの縮小に着手する方針を明らかにした。
FOMC声明は、経済は力強さを引き続き増す一方、雇用の伸びも引き続き底堅いとし、足元のインフレ軟化をFRBがおおむね一時的とみていることが示された。
年内はあと1度の利上げを見込み、足元で強弱まちまちとなっている経済指標は重視しない考えを示唆した。
また「委員会は現時点で、経済がおおむね想定通りに進展すれば、バランスシートの正常化プログラムを今年開始すると予想している」とし、償還資金の再投資縮小を通じた明確なバランスシート縮小計画を示した。
出所:ロイター
ここでFOMCが発表したバランスシートの縮小計画は下記のとおり。
●「FOMC」バランスシート縮小計画
①米国債
米国債については、月当たりの再投資見送り額を当初60億ドルに設定。
その後、月額300億ドルに達するまで、1年をかけて3カ月おきに60億ドル増やす。
②MBS(=モーゲージ担保証券)
MBS(モーゲージ担保証券)については、月あたりの再投資見送り額を40億ドルに設定。
月額200億ドルに達するまで1年をかけて3カ月ごとに40億ドル増やす。
加えて、イエレンFRB議長は「比較的早期に」バランスシート縮小を開始する可能性があるとの考えを表明。
今回のFOMCでは足元で強弱まちまちとなっている経済指標は重視せず、金融政策の正常化にふみきる模様。
FRBのバランスシート縮小はもちろん金融引締め策の一つで、米ドル高を誘引することは間違いないところ。
イエレン議長の英断により、多くの主要通貨に対して米ドルは急反発。
FOMC直前には、一時108.83円まで急落していた「米ドル/円」が数日で一気に111円台をも回復している。
では、このFOMCをきっかけとした米ドル高が継続するかどうかをテクニカル分析で検証してみる。
2)「米ドル/円」は6 month cycleで108.83円の安値到達、「米ドル/円」は反発継続でサマーラリーへ
過去1年の「米ドル/円」の流れを確認してみる。
「米ドル/円」が99.02円の安値に到達したのが、昨年のBrexit時の6月24日(金)。
その後FOMCが利上げして118.66円に到達したのが、昨年12月15日(木)。
ちょうど1年前になる昨年の6月24日(金)に安値をつけ、6カ月後の12月15日(木)に高値に到達していることになる。
そして今回FOMCが利上げとバランスシートの縮小を発表したのが6月14日(水)で、その直前に108.83円の安値に到達した「米ドル/円」はその後急反発している。
この6月14日(水)というのは、前回の高値である118.66円到達が昨年12月15日(木)であるから、ほぼ6カ月経過していることになる。

チャート:筆者作成
つまり、このところの「米ドル/円」は6 month cycleでトレンドを切り替えしているということになる。
ここでもうひとつポイントとなるのが、過去6カ月の「米ドル/円」はFOMCをきっかけにマーケットがトレンドを形成していること。

チャート:筆者作成
昨年「米ドル/円」が12月15日(木)から反落したのは、FOMCの利上げがきっかけ。
今年の3月15日(水)前後に「米ドル/円」が115.51円の高値から反落したのもFOMCの利上げがきっかけ。
今回のFOMCでも予想どおりの利上げが発表されたが、FOMCがバランスシートの縮小計画を発表したことで「米ドル/円」は逆に急騰している。
結果、6カ月という時間軸を経て、「米ドル/円」はFOMCのバランスシート縮小計画をきっかけにして、次の数カ月は反発に転じる公算が高まることになる。
下図は「米ドル/円」の週足。
「米ドル/円」週足はダブルボトムで、ネックラインは5月11日(木)高値114.365円。

チャート:筆者作成
昨年12月の118円台の高値から下げてきた「米ドル/円」は、今年4月と今月、108円台の安値をつけ、週足ではダブルボトムの形。
「米ドル/円」が上昇してネックラインとなる5月11日(木)の高値を超えると、教科書的には108円の安値と114円のネックラインの値幅分である6円の上昇が期待される。
そして114円から6円上昇すると、120円となり、昨年12月高値を超える動きになるが、これは週足なので、そこまで上昇するにはまだ時間がかかるであろう。
下図は「米ドル/円」の日足。
下図が示しているように、MACDもクロスし、「米ドル/円」の続伸を示唆。
またフランス大統領選挙と北朝鮮の地政学リスクが高まった4月17日(月)の安値も今回6月の安値も200日線がサポートしている(一時的には割り込むが)ことに加え、安値は切り上げてきている。

チャート:筆者作成
一方、続伸していた「ユーロ/米ドル」であるが、数回1.1300ドルをトライしたが、ブレイクできず、いったん調整にはいっている。つまり対ユーロでも米ドルは反発に転じている。

チャート:筆者作成
6カ月という時間軸できわめて正確に流れを反転させつつある「米ドル/円」。
反転のきっかけも、過去6カ月同様、FOMCの決断。 108.83円という安値をつけて反発に転じている「米ドル/円」の動向に注目である。西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。