スペシャル・トレンドレポート

コナンドラム再来?「米ドル/円」 年初来安値更新場面も!(竹内 典弘氏)

2017年6月16日

為替ディーラー:「米金利の再上昇が担保出来ないと「米ドル/円」の回復は見込み難いと思うのですが、先輩どうでしょうか」

金利ディーラー:「いい読みだね、コナンドラム(注)の再来かもね」

為替ディーラー:「なんですか、そのコナンドラムとは?」

金利ディーラー:「過去に政策金利の引き上げに長期金利が全く反応しない時代があってね、そのことを言うのだよ」

(注)元の意味は「カリフォルニア産の白ワイン」、この場合、2000年代の半ば米国の中央銀行FRBは合計で425bp(4.25%)、17回もの利上げを実施するが、長期金利はほとんど上昇せず、「米ドル/円」の上昇も引き締め期間の中盤のごく短期間に限られた(後述)。

上記は2010年代の新卒外資系金融機関入社組のなかで、最近活躍目覚ましい実績十分の為替ディーラーと、金利の世界では長老との評価名高い先輩金利ディーラーの会話だ。この実績十分の為替ディーラーでも知る由もない2000年代半ばのコナンドラムとは何か?今回はこの辺からひも解いていくことにしよう。

チャート:筆者作成

当時のアラン・グリーンスパン元FRB議長は、引き締め開始でも一向に上昇しない長期金利を、2005年2月の議会証言で「コナンドラム」(=謎)という文言を用い説明していた。この引き締め局面は2004年6月から2006年6月のほぼ2年間であり、米国の1990年以降の一定期間の引き締めでは一番強烈な局面であった。

金利の変動は通貨の強弱への排他的な決定要因だが、なぜこの時、米長期金利の上昇に直結しなかったのか?それは日本では日銀が財務省のために15年で55兆円の為替介入を実施し、そのほぼ全てが米国債の買いに向かっていたからだ(米債価格は上昇、金利は低下)。

さて、2015年12月に始まったリーマンショック後では初となる引き締め局面、ここまで既に3度の利上げが実施され、その2週間後(10営業日後)で判定するとその全てで長期金利は反転低下、「米ドル/円」も反転下落となっている。

チャート:YJFX!MT4チャートより筆者作成

今回の米景気の回復は2017年7月で9年目に突入となるが死角は無いのか?トランプラリー下で進捗した米長期金利の上昇の影響で、住宅販売に陰りが見え始めた。更に金利の影響を受ける新車販売は今年に入って既に5カ月連続で前年割れを記録し暗雲が垂れ込める。

こうしたなかで6月2日(金)に発表となった5月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数の増加幅が13.8万人と市場予想を下回ったが、失業率は4.3%まで低下、これは実に2001年5月以来16年ぶりの低水準だ。しかしこの様な完全雇用下でも賃金上昇には直結せず、平均時給はわずか0.2%の上昇に留まった。

筆者自身は特段悪い数値でもないとの解釈であったが、翌週も米長期金利の低下を伴い「米ドル/円」は下落した。6月6日(火)には、「中国、米国債は流通する他国債に比べ相対的に魅力、更なる買い増しを検討」と伝わり金利はさらに低下、米10年債金利では今年の最低水準となる2.135%に低下、「米ドル/円」も4月21日(金)以来の安値109.23まで売られてしまった。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

一方で「米ドル/円」の下値では、本邦の機関投資家が粛々と新年度入り後の外国債券の買い付けに動いている。毎週財務省が公表する週次の対外及び対内証券売買契約等の状況では、日本の機関投資家は5月に海外の中長期債を約3兆円買い越している。

これは月間では、昨年7月に世界の既発債のなかで10兆ドルを超える国債が、マイナス金利に埋没していた時以来の高水準の買い越し額で、(米ドルの)下値ではこうした新規の買いが実弾(の米ドル買い)を伴って噴出している。

チャート : 財務省より筆者作成

更に米金利については、長期では低下傾向は顕著だが、短期中期では相次ぐ利上げに支えられ、さほど低下はしていない。つまりこれは機関投資家のヘッジ付きの外債投資(注)でのヘッジコストの増大を意味し、ヘッジの「米ドル/円」の売り持ちの解消、つまり米ドルの買い戻しに直結する。

(注)略してヘッジ外債、本来米国債買い+「米ドル/円」の買いで外債投資は完結、ヘッジは「米ドル/円」の下落に備え為替部分を先物で売り建てる。ヘッジ外債の反対がオープン外債。

チャート : 筆者作成

米長期金利低下に伴う米ドル安、一方で下値では機関投資家の買い、そして買い戻し意欲は依然強いことが確認された。強弱入り混じる構図だが、今回の引き締め局面、FRBの複数回の利上げでもむしろ長期金利は低下している。前述中国のニュースでもわかるように主要国の中で引き締めに向かう米国の長期債は、金利水準では依然この水準でも魅力的だとの結論になる。

では一体ここからの「米ドル/円」の再上昇には何が必要なのか?筆者は経済指標の好転、特に物価関連の指標の改善がカギと考えていた。既に1月18日(水)にイエレンFRB議長はサンフランシスコでの講演で、「2019年末の政策金利は3%」がふさわしいと言及している。ここから導かれるのは2018年末まで5回と想定される利上げで、焦点はその織り込みだ。

3月FOMCの2営業日前、3月13日(月)ザラバでは2018年末までの利上げの織り込み回数は3.91回に到達していた。しかしそれが本レポート執筆時点、6月14日(水)午前7時時点では、実に2.56回まで低下している。

この織り込み、フェデラルファンド(政策)金利先物から算出可能で、この織り込みと「米ドル/円」の間には一定の相関がある。ただ足元ではこちらの織り込み回数の上昇への「米ドル/円」の感応度も低下していて5回フルに織り込んでも理論上116.94円までしか上昇しないことになる。

チャート :筆者作成

以上をまとめると、通常、金利の決定要因は「潜在成長率(≒中立金利)+予想物価上昇率+リスクプレミアム」であるが、恐らくこの全てに異変が生じているとみられる。フェデラルファンド金利、並びに長期金利上昇での「米ドル/円」の感応度は弱まりつつある。

トランプ大統領の提唱するリフレを伴う大胆な経済政策が実施されるなら、それはゲームチェンジャーとして機能するが、どうやら現状杞憂に終わりそうな勢いである。例年7-8月には第一次所得収支(注)等から発生する多額の「米ドル/円」の売りが持ち込まれる。一部の消費関連、並びに物価関連の指標の悪化が改善傾向を示さない場合、夏場に向けて「米ドル/円」は年初来の安値を更新する場面もあるかもしれない。

(注)対外金融資産等から発生する利子・配当の総称

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年6月16日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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