1)フランス大統領選を無事終えた「ユーロ/円」は反発へ
昨年末118 円台まで暴騰し、マーケットの主役に躍り出た「米ドル/円」であるが、今年前半は上値を伸ばしきれず、110〜115円で膠着。
中長期の「ドル高・円安」の流れはかわらないが、いったん調整局面に。
その「米ドル/円」にかわり、マーケットの注目を集めているのが「ユーロ/円」。
今年前半の「ユーロ/円」はフランス大統領選に向けて、続落。
その背景は昨年のBrexit(イギリスのEU離脱)。
2016年6月は衝撃のBrexitを受け、「英ポンド/円」は暴落。
Brexitを懸念し始めた2015年を起点とすれば、「英ポンド/円」は一時70円以上も急落した。
フランス大統領選が近づくにつれ、多くのマーケット参加者はBrexit時の「英ポンド/円」暴落の再現を懸念するようになり、それに備えざるを得なくなる。
まず保有していたフランス国債を売却。
そして「ユーロ/円」をショートに。
「ユーロ/円」は一時114.85円まで急落した。
加えて、オプションマーケットでは「ユーロ/円」の1カ月物のリスク・リバーサルが、マイナス6.7%まで急低下。
簡単にいってしまえば、多少コストを払っても、「ユーロ/円」の暴落に備えざるを得なかったというほど、オプション市場では「ユーロ/円」急落に対する警戒感が高まっていた。
そして注目のフランス大統領選はマクロン大統領の誕生という結果に。
まさかの事態に備えヘッジしていた「ユーロ/円」のショートはオプションも含め、価値が急速に下がるので、オプションのカバーに加え、「ユーロ/円」の急速な買い戻しが進み、「ユーロ/円」は急騰。
短期間で、125円台まで急回復した。
安値より約10円回復したところで、「ユーロ/円」の上昇は一服となったところでメルケル首相から後述のコメントが飛び出し、「ユーロ/円」の上値余地は更に拡大することになる。
2)唐突感のあるメルケル首相の「ユーロは安すぎる」コメント
5月23日(火)の欧州時間に、メルケル首相が「ユーロは弱すぎる」とコメントし、ユーロ円は一時急騰。
メルケル首相:ユーロは「弱すぎる」、ドイツ製品を割安にしている。
ドイツの貿易黒字はユーロ安の結果だと、メルケル独首相が述べた。
「ユーロは弱すぎる。これはECBの政策が理由だ。これによってドイツ製品が相対的に安くなっている」とメルケル首相がベルリンで貿易黒字について学生らに語った。
出所:BLOOMBERG
メルケル首相は今年の2月にも同様のコメントをしている。
メルケル首相:ユーロ相場は自分の力の及ぶところでない-米政権に反論
メルケル首相はユーロ相場について、ドイツの貿易黒字の一因であるのは確かだが、それは欧州中央銀行(ECB)の金融政策決定においてユーロ圏19カ国の異なる経済状況に対応する必要性が理由だとの見解を示した。
ミュンヘン安全保障会議でドイツの経常黒字について質問を受けたメルケル首相は、「もしドイツ・マルクがまだ通用しているなら、今のユーロ相場とは異なる評価を受けていただろう」と述べ、「だが、独立した金融政策に伴うものであり、私は首相としてそれに対して影響力はゼロだ」と答えた。
ユーロ安がドイツに貿易上の不当な優位性を与えていると主張するトランプ政権の批判への反論としては、同首相の今回の発言はこれまでで最も踏み込んだものとなった。米国家通商会議(NTC)委員長のピーター・ナバロ氏は今月、ユーロの「甚だしい過小評価」でドイツが恩恵を受けていると指摘していた。
出所:BLOOMBERG
メルケル首相のいっていることは、ECB を批判しているというよりも、トランプ政権から貿易黒字に対する批判を繰り返されてもECBの金融緩和が変わらなければどうしようもないということをいっているのでしょう。
(ひとつの手段としては内需拡大という手はあるが)
ユーロ上昇の理由のひとつに、ドラギ総裁の後任がバイトマン独連銀総裁になる可能性があるためとの意見もあるが、これはほとんど影響を及ぼさない模様。
なぜなら、ECB理事会は多数決であるため、緩和を求める南欧諸国が多数存在する限り、ドイツ人が総裁になったところでそれは変わらないということになる。
そして「ユーロ/円」上昇の背景として一番大きな要因としてあげられるのがECBの出口論が活発になっていること。
出口に向かうためには、景気減速で苦しむ南欧諸国を切り捨てるかどうかがポイントになるため、今後のECBの動向に注目。
3)本邦投資家の欧州投資の再開
メルケル首相のコメントよりも個人的に重要視しているのが、本邦機関投資家の動向。
前述のようにフランス大統領選を控え、本邦機関投資家は欧州への投資をアンダーウエイトに。
フランス大統領選を無事に終えたことで、彼らは欧州への投資を再開しようとしている。
彼らが注目しているのが好調な欧州株式。
この欧州への資金流入が「ユーロ/円」を下支えするのではないかと想定している。
では、どこまで「ユーロ/円」は上がるのか?
4)本邦機関投資家の欧州投資再開で、「ユーロ/円」は135円へ
「ユーロ/円」の安値は昨年6月のBrexitでつけた109.554円(6/24)で、現在はこれを底にした上昇過程にある。
「ユーロ/円」の動きを週足チャートで確かめると、「ユーロ/円」は2015年の1月から上値を抑えてきた週足の75SMAを上抜けてきている。これまで75週SMA付近には4回接近したが、いずれもしっかりと上抜けることができずに戻されてきた。しかし今回は5回目にして完全に上抜けている。
そこで「ユーロ/円」の上値の目途をフィボナッチ・リトレースメントで探ると、2つの高値を考えることができる。
1つは、「米ドル/円」がアベノミクスの上昇相場で121円の高値をつけたのと同じタイミングで2014年12月につけた「ユーロ/円」の高値149.758円(12/8)。
そしてもう1つは、2015年6月の高値141.054円(6/4)である。

チャート:筆者作成
上記チャートの通り、2014年の149円と昨年の109円のフィボナッチでは、61.8%=134.400円、38.2%=124.912円で現在はこの38.2%付近まで上昇してきていることがわかる。
そしてもうひとつの高値である2015年の高値141円と昨年の109円でフィボナッチすると、61.8%=129.021円、38.2%=121.587円となり、38.2%はすでに通過して61.8%に向かう動きの中にある。
上記は、149円または141円から109円への大きな下落の動きから戻り高値を計算したが、高値計算としてはフィボナッチ・エクスパンションも使うことができる。
昨年6月のBrexitの安値109.554円と、昨年12月の高値124.097円、そして本レポートの前半で説明したように今年4月のフランス大統領選挙を前にした安値114.849円で計算することができる。
フィボナッチ・エクスパンションの計算をすると、最初の目標値(COP)は123.837円で現在はこの付近にきている。
そして、この先の目標値(OP)は129.392円となる。
チャートをご覧いただくと、先ほどのフィボナッチ・リトレースメントの61.8%(129.021円)と、エクスパンションのOP(129.392円)は全体が40円もの大きな相場の値動きの中で40銭程度しか差がない。このため、129円から130円付近はフィボナッチが重なる強い上値抵抗となる可能性が考えられる。
また、この130円付近には週足の200SMAもあり、この点からも130円前後が上値抵抗となる可能性が考えられる。
当面はこの130円付近が目標となりやすいものの、ECBの出口論が活発となれば、「ユーロ/円」の上昇余地はさらに拡大する。仮に130円付近の上値抵抗を上抜けてくるようであれば、149円と109円の61.8%が位置する135円付近への上昇も想定できる。

チャート:筆者作成
また、上記「ユーロ/円」の週足チャートを一目均衡表で見ても、久しぶりに雲を上抜けてきた。まだ週足の一目均衡表は三役好転していないが、まずは雲を上抜けていて、このまま雲の上側で推移していくと、遅行スパンも雲をブレイク。
さらには現在重なっている基準線と転換線も転換線が先行してくるものと思われる。
このようにテクニカルでも「ユーロ/円」の上昇余地はかなり拡大しているといえる。
本邦機関投資家の欧州への投資も再開され、130円へ続伸する公算が高まっている「ユーロ/円」の動向に注目である。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。