スペシャル・トレンドレポート

朝鮮半島有事を分析!「米ドル/円」の反応は?(竹内 典弘氏)

2017年4月17日

A銀行外為ディーラー:「午前(注1)の米、シリア攻撃でも「米ドル/円」の安値は110.14円までだったな」
B証券外為ディーラー:「同日の米雇用統計直後の安値も同じ110.14円(注2)だ」
A銀行外為ディーラー:「ネガティブなニュースでも走らない(米ドル売りにならない)、110円は割れないのか」
B証券外為ディーラー:「同じレベルで跳ね返されるなんて偶然じゃないね、どうやら110円手前に相当の(米ドル)の買いがあるらしい」

(注1)4月7日(金)東京時間午前に報道された米国のシリアへの攻撃
(注2)銀行間取引での実際の安値

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

まさに米中首脳会談最中に実行されたシリア攻撃を、市場はやや意外感を持って受け止めた。プラス圏で推移していた日経平均株価は急反落、111円を伺う展開であった「米ドル/円」も急落し、一旦110.14円のこの時間帯の安値を示現した。

その約10時間後に発表された3月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数の増加幅は9.8万人と報じられ、事前予想の半分程度だった。これを受け「米ドル/円」は再度売られ110.14円まで弱含んだが、このセッションでも110円は割り込むことは無かった。どちらかというとネガティブなニュースに反応するのは一瞬だけで、その後は切り返す展開が継続していた。

しかし4月11日(火)深夜、トランプ大統領が再び自身のツイートで、「中国の協力無くとも北朝鮮問題単独解決の準備あり」、「海上自衛隊、米空母と合同軍事演習」(関係筋)と報じられ、再び地政学リスクが嫌気され、ダウ工業株30種平均は寄り付きより100ドルの下落となった。

この流れのなかで、主要通貨に対して円が買われ、「米ドル/円」は節目の110.00円をあっさり決壊、その後一度も110.00円を回復することなく4月13日(木)本レポート執筆時点(午前11時)には108.73円の安値まで弱含んだ。市場で意識されていたのは、昨年英国民投票当日の安値99.00円から12月の高値118.66円の半値水準108.83円だが、現時点でやや下げ止まりの兆候はある。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

ややサプライズであった米国のシリア攻撃に端を発した地政学リスクが高まり、本レポートでは従来からの金利・ファンダメンタルズからの解析を一旦休止し、より旬のトピックを分かり易いカタチでお伝えすることにした。そうしたカテゴリーは次回より復活させるので、どうかご容赦願いたい。

過去に目を転じれば、1989年6月4日、中国人民解放軍が中国天安門に民主化を求め集結した学生を武力鎮圧した(天安門事件)。集会を武力で解決し、多数の死傷者を出したことから世界各国より批判を浴び、金融市場は不安定となり、「米ドル/円」はわずか2週間程度の間に約10円の急騰を演じ151.80円付近まで上昇した。

チャート:YJFX! MT4チャートより筆者作成

翌年1990年8月2日、イラクは隣国クウェートに侵攻し、この時も金融市場は「侵攻は侵略行為」、つまり戦争と解釈し、146円台で取引されていた「米ドル/円」には買いが殺到し僅か2時間程で約5円の急騰となり、151.60円付近まで強含んだ。

チャート : YJFX! MT4チャートより筆者作成

当時は、有事であれば基軸通貨の米ドルに資金を移すのが安全とされ、「有事の米ドル買い」という言葉が席巻していた。これは戦時(混乱時)には流動性があり、基軸通貨でもある米ドルに排他的に資金を移動させることが一番安全で、それ以外の選択肢は考えられなかった。

では4月7日(金)米国のシリア攻撃で何故市場は「米ドル/円」の売りで反応したのか?結論から言うと、当時とは時代背景が全く異なる。かつて、英フィナンシャルタイムズ誌はDollar`s haven status hangs in the balance(米ドルの地位は揺らいでいる≒米ドル信仰は過去の話)と論じていた。

通貨ユーロの誕生で基軸通貨の地位は揺らぎ、今は世界の中央銀行全体でみれば、その持ち高(外貨準備)で米ドルに次ぐのはユーロだ。有事にわざわざご丁寧に米ドルにイクスチェンジを起こし、ヘッジする意味が全く無くなってしまったという訳だ。

参照:国際通貨基金より筆者作成

今後やや懸念される北朝鮮有事であるが、どういった予備知識が求められるのか?

よくメディア等で目にするのは、地政学リスクなどが高まった(リスク・オフ)時に「相対的に安全資産である円やスイスフランを買う」、という論調があるがこれは正しいのか?後者であれば永世中立国という背景を鑑みれば、正しい部分もある。

そもそも原点に返って通貨に安全というステイタスは無く、円やスイスフランの置かれている立場は、中央銀行の政策金利がマイナスに沈没しているという点だ。こうした環境下では円やスイスフランを単体で所持していても金利は発生するどころか、場合によって金利負担(支払い)という、とんでもない現象が発生する。

機関投資家・ヘッジファンド等はどうしているのか。こうした通貨を売り建て、金利の高い通貨を買い建てる。平時(リスク・オン)であり、市場環境が安定しているなら、低金利の(ファンディング)通貨を更に借り入れ、高金利への投資行動を活発にする。これが所謂キャリートレードと呼ばれるものだ。

こうして積みあがったポジションは、市場環境が悪化し、変動率が高まると金利差以上の損失が発生するリスクがある(キャピタルロス)(注)。投資家は一斉にポジションを縮小し始め、上述のプロセスは逆流を開始する。これが「安全資産が買われる」という妄想で、実は円やスイスフランが『買い戻されている』に過ぎない。

(注)価格変動に伴い発生する売買差損

朝鮮半島有事の際など、日本へのミサイル飛来、着弾の可能性も排除できず、取引銀行の開いている間に現金を確保しようと市民が考えるのは至極当然だ。こうした現金化の動きもリスク・オフの動きを加速させる要因となる。

更に、日本は対外純資産を350兆円以上も有する世界有数の対外純資産国だ。特に今回の様な戦時下を想定するなら、海外資産の行方も懸念され、より一層リスク・オフの色合いが濃くなることも想定される。こうした環境を踏まえれば、リスク・オフ時には逆流が加速するのが手に取るようにわかる。

ただ、問題はその継続性。東日本大震災後の「米ドル/円」の動きを見ればわかるが、(日銀の介入が一度だけあったが)発生時のレベルを程なくして回復している。投機筋が本邦の機関投資家のレパトリを先取りして「米ドル/円」を売りまくったためで、その後は損失覚悟の買い戻しを迫られた。

国際決済銀行の統計では、世界で一日に取引される外国為替の取引高は約5.5兆米ドルとなっている。この実に98%は投機で、(あまり考えたくはないが)北朝鮮有事直後に米ドルが売られたとしても、それが暫く継続するかは状況次第だ。投機その他の複合要因まで加味しなければならない。

以上まとめると、朝鮮有事とヘッドラインに流れた直後は、既にAI/HFT(注)には米ドル売りで反応するプログラミングは、広範に組み込まれているものとみられ、即「米ドル/円」売りで反応してくるだろう。金融機関勤務のトレーダー等も同様に反応するだろう。その後の継続性は、株・金利見合い・投機、そして関係各国の対応次第となりそうだ(勿論こんな事は微塵にも起こって欲しいとは思っていない、平和的解決を切に願っている)。

(注)人工知能/コンピューターを使った高頻度取引

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年4月17日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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