1)トランポノミクスの失速で米株は調整局面入り
トランポノミクスへの期待を背景にじり高に推移してきた米株であるが、3月に入り失速。
3月21日(火)のNY市場では、一気に200ドル以上も急落し、米株は21,000ドル到達を高値に調整モード入り。
3月中旬からNYダウは上値の重い展開が続いていたが、それはヘルスケア法案の採決が遅れる可能性をマーケットが懸念していたこと。
その懸念は3月24日(金)に現実となり、ヘルスケア法案の採決は中止される。
米下院共和党は24日、トランプ大統領の指示を受けて医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案の採決を中止した。大統領は前日、議席を失いたくないなら法案を支持せよと共和党議員に迫っていたが、最新の法案に反対する共和党議員の数は減るどころか増えていた。
共和党首脳部の側近によると、ライアン下院議長は採決予定時刻の間際にトランプ大統領から電話で要請を受け、採決中止とした。
出所:Bloomberg
トランポノミクスのリスクは、トランプ政権及び共和党の目指す経済政策の実行が遅れてしまうことと言われていたが、それが現実のものとなったわけだ。
トランプ大統領が「次は税制改革だ!」とコメントしたように、焦点が税制改革に移行することを評価しているマーケット参加者もいるが、トランプ大統領の求心力の低下を危惧するマーケット参加者が増えている。
NYダウは3月1日(水)の21,169ドルを高値に調整局面入り。
呼応して、米ドル金利も低下気味。
そして「米ドル/円」もトランポノミクスの失速とともに、調整局面入り。
2)米株の下落に加え、FOMC後の「sell the fact」により「米ドル/円」も調整局面入り。米株とともに「米ドル/円」も調整局面入りへ
ここでトランプ大統領誕生からの「米ドル/円」の流れを確認したい。
まず、昨年11月9日(水)の米大統領選でトランプ氏が選出されたことから、「米ドル/円」は101.20円から一気に約17円急騰する。
そしてFOMCが利上げを発表した直後の昨年12月15日(木)に「米ドル/円」は118.66円の高値をつけ、反落へ。
これがいわゆる「buy the rumor 、sell the fact」といわれる動きとなる。
「噂で買って、事実で売る」つまり、米国の利上げが広範に予想されているため、マーケットは利上げを織り込む形で、つまり米国の利上げという噂で「米ドル/円」は上昇した。そして事実として米国の利上げがあると市場参加者は米国の利上げという事実を背景に、いっせいに利益確定の米ドル売りを持ち込み「米ドル/円」は反落という流れ。
その後、米ドル安は進行し、2月7日(火)には111.60円まで急落した。
▽「米ドル/円」日足

(筆者作成)
結果として、「米ドル/円」は米大統領選でトランプ大統領が選ばれてから、約17円急騰し、FOMCの利上げで高値をつけて大きく反落したことになる。
FOMC後の高値から安値をつけるまで、ほぼ2カ月弱。
「米ドル/円」の118.66円という高値から安値までの値幅は7.08円であった。
3月もFOMC(3月15日)前後に115.51円をつけてから「米ドル/円」は急反落。
前回の値幅を今回の相場に当てはめてみると、「米ドル/円」は108.43円まで反落することになる。
▽「米ドル/円」日足

(筆者作成)
前述のようにトランプラリーの高値は118.66円、安値は101.18円。
この38.2%戻しは111.99円であり、このレベルで何度も反発していたが、先週のヘルスケア法案の採決中止の報道を受け、そのサポートが決壊。
次のサポートは50%の109.93円となる。
さらに次の節目は61.8%である107.86円。
これは前述の値幅分析からのサポートとなる108.43円に近い数値でもあり、「米ドル/円」の次の節目は108.00円±50pipsレベルだと想定している。
前述のようにトランポノミクスのリスクは、「トランプ政権及び共和党の目指す経済政策の実行が遅れてしまうこと」といわれていたが、それが現実のものとなったことで、米株と「米ドル/円」は調整局面に入り、「米ドル/円」も当面下値を模索する展開が続きそうである。
トランポノミクスの失速に伴い、調整を深めている「米ドル/円」の動向に注目したい。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。