スペシャル・トレンドレポート

FRB政策は2重の引き締め効果! 「米ドル/円」120円方向へ(竹内 典弘氏)

2017年3月24日

外為ディーラー:「イエレンFRB議長の1月以降のこの変貌ぶりは何だい」
金利ディーラー:「自身の任期も含め、金利正常化への明確なメッセージだ。任期期間中のレガシー(功績)も意識し始めているよ」
外為ディーラー:「今後も粛々と引き締め路線は堅持でいいのかね」
金利ディーラー:「そうだな、今後はそれに加えてバラスシートの縮小(注)が焦点になるね」

(注)過去の緩和局面で買い入れた国債等の資産を減らし、自然減を図ること、後述。

上記は、ある外資系金融機関のディーリングルーム内での会話だ。FRB(米国の中央銀行)の利上げがここにきて加速しそうな勢いだ。1月18日(水)イエレン議長は講演で、「2019年までに年2-3回の利上げが濃厚、政策金利は19年末に3%に近づく」と明言していた。

年明け以降、イエレン議長のややタカ派に傾斜した発言が相次ぐが、この背景は何なのか?大統領が、在任期間中の功績をレガシーと強く意識するのは、セントラルバンカーも同じだ。トランプ大統領が、来年2月に任期を満了するイエレン議長を再任しないと明言していることから、任期期間中に議長が利上げのロードマップを完結してしまいたいと考えるのは至極当然だろう。

昨年12月の1年ぶりの利上げ以降も米経済指標の改善傾向は継続していて、FRB高官の発言への注目度は更に増していた。ハト派のブレイナード理事は、昨年9月に「20%の米ドル高は2%の引き締めに匹敵する」と発言し、事前に盛り上がった利上げ機運を打ち消していた。

そして3月2日(木)、ハーバード大学での講演で本人は「(米経済の)前進が継続するなら、緩和は解除し、更に緩やかな道筋を継続することが適切」と指摘した。これ以降、FRBの3月利上げ(政策金利の変更)の織り込みは急加速し、事前に織り込みはOIS(注)で100%に到達、FOMC後の値動きが注目された。

(注)オーバーナイト・インデックス・スワップ

事前の織り込みが100%完了していると、政策金利発表後の値動きはどうなるのか、格好の教材は2016年8月11日のRBNZ(NZの中央銀行)の0.25%の利下げだった。発表前にOISで100%織り込まれていて、直後の反応は材料出尽くしで150ポイントの急騰だった。

チャート:YJFX! MT4より筆者作成

そして迎えた日本時間3月16日(木)のFOMCでの利上げ発表後もSell the fact(材料出尽くし)となり、米ドルは円に対して一直線に値を消す展開となった。織り込みが100%完了していると発表直後に真逆に進行することが再び確認された。

チャート:YJFX! MT4より筆者作成

さて、今後FRBはどのような政策変更を意図しているのか?上述、イエレン議長の1月発言時点での米国の政策金利は0.75%、これが19年末に3%になるとすると、その上げ幅は2.25%、期間は3年であるから単年での利上げ幅は平均で0.75%、一回の利上げ幅は0.25%であるから、年平均で3回の利上げが必要になる勘定だ。

つまり上述イエレン議長の年2-3回というのは、3回を示唆している。換言すれば、今後年2回の年があるとすれば4回の年も存在する訳で、トランプ政権下で財政拡張策が実施されれば、引き締めは更に加速する。つまりイエレン議長は実質単年で『年3回以上』の利上げをほのめかしたとも解釈できる。

それではFRBの利上げ(引き締め)は巡航速度に乗っているのか、後手に回っているのか。これを判断するのに一つの判断基準となるのはテイラールール(注)の存在である。これによれば、現在の経済環境と整合的なFRBの政策金利の水準は3.8065%となり、現行の1.00%と依然大きく乖離したままとなっている。

チャート:zerohedge

(注)ジョン・ブライアン・テイラーが1993年に提唱したインフレ・雇用・GDP等を加味した変数と整合的な中央銀行の政策金利の水準。様々な論争はあるが中銀の政策金利の判断に一定の影響があるとされる。

現在、米国では完全雇用が叫ばれ失業率は4.7%水準、一方で消費者物価は2%強とインフレを特段心配する水準でもない。ただ過去に目を転じれば1960年代、今とほぼ同じような状況が存在し、FRBが利下げを急がなかったため、失業率が4%を割った途端、消費者物価が3%を超え対応に苦慮した過去がある。

こうした背景を鑑みれば、FRBの利上げ(引き締め)は後手にまわっていると解釈され、今後の引き締めは加速すると考えられる。つまりFRBは、上述バランスシートの縮小(資産圧縮)に大きく舵を切る段階に差し掛かっている。FRBはリーマンショック以降の3度の量的緩和局面で大量の国債を市場から買い上げた結果、現在のバランスシートの規模は約4.5兆米ドルに到達している。

チャート:FRBより筆者作成

ここでいうバランスシート縮小とはFRBが保有する国債等を単純に減らすという意味だ。それは保有している国債等が満期・償還を迎えた場合、それを再投資せず償還に応じる(緩和資金の回収)ことで実質自然減を図る措置であり、市場で売りさばくという意味ではない。

2011年3月バーナンキ元FRB議長は、議会証言で「1500億米ドルから2500億米ドルの資産購入は政策金利の0.25%の引き下げに相当する」と試算している。この発言を踏まえるとFRBはリーマンショック後もとんでもない緩和を依然継続している訳で、ニューヨーク・ダウが2月に12連騰を記録したのは、筆者はトランプ政権への政策期待もさることながら、未だにこれだけの資金供給を継続している中央銀行の政策にも一部起因していると考えている。

今後FRBの保有国債は以下の様に、2017年より順次満期が到来し、2018-19年に大量の償還を迎える。多額の満期はバランスシート縮小へ願っても無い好機となる。利上げは金利の上昇を伴い、債券価格の下落を意味し、債券保有者は損失計上を余儀なくされる。こうした観点からも、バランスシート調整は利上げと同時進行することは理に適う。

チャート:FRBより筆者作成

ではこのバランスシート、減額の目途はどこなのか?シカゴ連銀のエバンス総裁は2月9日(木)の講演で「バランスシートの着地点は1.0-1.5兆米ドル」と言及している。すると少なめに見積もって今後FRBのバランスシートは約3兆米ドルの縮小が想定される。

この約3兆米ドルの引き締め効果は?最低値で見積もっても、上述バーナンキ元FRB議長の試算より3兆ドル/2500億米ドルX0.25%=3.00%となる。現行の政策金利(1.00%)対比では俄然大きく、今後FRBの金融政策は利上げに加えバランスシートの縮小で2重の引き締めが現実路線となる。

ただ、利上げ継続は株式・不動産等の資産バブルには予防的に抑制作用が働く一方、行き過ぎは下落を誘発しかねない。つまりFRBは慎重に引き締め路線を維持するものとみられる。一方、為替では米ドル高要因、特に依然緩和サイクル渦中にあり、消費者物価2%目標が雲の上の存在の日本円に対しての優位性はさらに高まる。

以上まとめると、2重の引き締めとなれば米国への資金回帰は鮮明となる。2月17日(金)の前レポートでは「米ドル高牽制は一時的」と結論付けたが、バランスシートの縮小はこうした見方を更に後押しするものとなる。FRBの資産圧縮の議論が活発化するにつれ、「米ドル/円」は120円方向に再び大きく舵を切ると考えてよさそうだ。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年3月24日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について竹内典弘氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたします。
※コンテンツ、データ等の著作権はワイジェイFX株式会社に帰属します。私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめください。

関連する記事

投資にかかる手数料等およびリスクについて
当社ホームページ記載の金融商品へのご投資には、商品ごとに所定の手数料等をご負担いただく場合があります。各商品には価格の変動による損失が生じるおそれがあります。また、店頭外国為替証拠金取引をお取引いただく場合は、当社所定の証拠金が必要となり、元本を超える損失が生じるおそれがあります。なお、商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、当該商品等の「契約締結前交付書面」、「契約締結時交付書面」及び「目論見書」等をよくお読み頂き、それら内容をご理解の上、ご自身の判断と責任において、自己の計算によりお取引を行ってください。

FX・バイナリーオプションならヤフーグループのYJFX!
ワイジェイFX株式会社はヤフー株式会社
(東証一部上場 4689)のグループ企業です。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第271号
加入協会 日本証券業協会 
一般社団法人金融先物取引業協会 
一般社団法人日本投資顧問業協会

YJFX! from Yahoo! JAPAN