2月20日(月)、「ユーロ圏財務相会合」が開催された。毎月一度開催されるこの会合であるが、今回は特別な意味があった。それは、欧州・ギリシャ・国際通貨基金(IMF)の間で意見が分かれ、収まりがつかなくなっている『ギリシャ金融支援』の内容について協議されたからである。もし、この支援協議が物別れに終われば、ギリシャは早ければ今年夏にもデフォルトする。そんな際どい会合について、今回は書いてみたい。
どうしてまたギリシャ?
2009年からずっと欧州を悩ませてきたギリシャ債務危機。最終的に、ギリシャは自力での財政運営を諦め、欧州やIMFから金融支援を受ける形で決着を迎えた。結局、その金融支援も、第1次・第2次では足りず、2015年夏には第3次がスタートしている。
今年7月、ギリシャには72億ユーロという大規模な償還/利払いが待ち受けていて、支援金を受け取らない限り、デフォルト(債務不履行)することは目に見えている。そのため、マーケットはあらためて『ギリシャ金融支援』の報道に関心を寄せるようになった。
ギリシャを巡るいざこざ
前回のギリシャ債務危機時は、『EU/ECB/IMF対ギリシャ』という関係がはっきりしていたが、今回の支援問題では、その関係が崩れた。
事の起こりは、今年2月6日(月)にIMFが『ギリシャに関する報告書』を発表した時に始まる。そこでは、「IMF理事会で、これ以上ギリシャ支援に関わるのはいかがなものか?」という意見が出たことが暴露され、問題が複雑化してきた。そして、ギリシャ債務は爆発的に膨らむ可能性があると警鐘を鳴らし、早めの債務再編実施を提案している。
この報告書を見た欧州関係者からは、ギリシャ債務は管理可能で、「欧州の問題は欧州で解決すればよい。IMFの参加は必要ない。」という意見が出ている。だが、ユーロ加盟国の一部では、ギリシャ支援のために自国の国民の税金を使う条件として、『IMFの参加』があげられているところもあり、簡単に欧州の問題と片付けられない弱みもある。
「ユーロ圏財務相会合」での決定内容
2月20日(月)の「ユーロ圏財務相会合」は、予定よりも早く会議が終了し、みんなを驚かせた。予想外にスムーズに事が運んだ背景には、「今年はユーロ加盟国の3カ国で選挙が行われる。ここでギリシャを痛めつけると、選挙にも良い影響を与えない。ここのところは、とりあえず年内の選挙が終わるまで穏便に事を運ぶのが得策だ。」ということであると私は理解している。
ここに至るまで、ギリシャは支援と引き換えに、超緊縮財政策を受け入れてきた。もともとギリシャの年金受給額は他国と比較して高すぎるという事実はあるが、今回の緊縮財政のおかげで、一部の人たちの年金受取額は6割減という現実が待っていると言われている。何年にも及ぶこのような緊縮財政策の導入により、ギリシャ国民は人道的危機に陥っていて、これ以上の緊縮を要求されるなら、いっそユーロ圏から離脱して、ドラクマに戻っても構わない。そんな雰囲気さえあった。
しかし、今年の3月15日(水)のオランダを皮切りに、4月末にはフランス大統領選が待っている。そんなタイミングでGrexit(ギリシャのEU離脱)などということになれば、『半年以内にユーロ離脱の国民投票実施を選挙公約』にしているフランス大統領選候補の国民戦線:ルペン候補に有利に働く。欧州は何があっても、これは食い止めなければならない。
結果として、「ユーロ圏財務相会合」では、これ以上の緊縮財政の押し付けはやめ、税制・年金・労働市場などの構造改革の実施で合意した。これを好感したマーケットでは、ギリシャ2年物国債利回りが、10%台から一気に8%台へ下落(債券価格上昇)している。

ここからのマーケット
今週に入り、ユーロが下落している。ギリシャ問題がひとまず安全圏に入ったのに、どうしてなのか?それは、フランス大統領選に関する報道である。週末に実施された世論調査結果によると、5月7日(日)に実施される大統領選決戦投票(2回目投票)でのルペン候補の支持率が40%を上回り、42%となった。選挙まで、まだ2カ月という時間があるので、まごまごしているとルペン大統領誕生などということにもなりかねない。
これを受け、フランス国債は大きく売られ、ユーロも売られた。ドイツとフランスの国債利回り格差(イールドスプレッド)は、2012年ギリシャ債務危機時と同じだけ拡大している。
このユーロ下落を受け、ユーロ実効レートをチェックしてみたが、重要な93ミドル(チャート上のグレーの点線)のサポートが下に抜けてしまった。

チャート: ECBホームページ
もし、このまま93ミドルより上に戻らないようであれば、92ミドルくらいは、覚悟しておくほうが賢明であろう。仮に92ミドルまでいったと仮定した場合の【計算上の「ユーロ/米ドル」目標値】は、1.04395ドルになった。
松崎 美子氏プロフィール

- 松崎 美子(まつざき よしこ)
- 東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。