スペシャル・トレンドレポート

米ドル高牽制効果は一時的、 年央から「米ドル/円」再上昇へ

2017年2月17日

アジア地区責任者 : 「ツイートリスクに、大統領令連発か」

米国地区責任者 : 「経済指標どころじゃないな、大統領発言で為替が動く世界になったな」

為替取引グローバルヘッド : 「変動幅が小さいより良いだろ、動いているうちに収益を確保するように。ツイートリスク等を鑑み、トランプ(以下T)大統領のツイートはスマホ上にポップアップさせて、常に緊張感をもってフォローするように」

上記は、ある欧州系銀行の世界の主要拠点の、地区担当責任者を集めた電話会議の場面だ。大統領の要職にある人物が発信するメッセージで為替市場が翻弄されている。11月のT大統領勝利以降では、ざっと振り返るだけで以下の変動をもたらした。

チャート:YJFX!外貨exより筆者作成

1月20日(金)のT大統領就任式以降でも、議会証言を必要としない大統領令の連発に、いささか辟易としてきたのは筆者だけではないだろう。2月に入っても、イスラム圏7カ国からの入国者制限等、どちらかといえばネガティブなメッセージが大半であった。

さて、T大統領の発言を振り返ると、米ドル高をけん制する発言が目立つ。ではこれは米ドル高をけん制するだけなのか、実際米ドル安指向をしたいのか、という疑問が沸く。結論からいえば、筆者はどちらでもその効果の継続性にはやや懐疑的だ。今後の展開は、外交努力とFRB理事の行方から、ある程度読み解くことができると考えている。

2月10日(金)、11日(土)ワシントン、フロリダで日米首脳会談が開催された。事前に「異例の厚遇。会談後、大統領専用機エアフォースワンでフロリダ州パームビーチに移動、T大統領所有の別荘で夕食2回を含め5回の食事、11日(土)はゴルフの予定」と報じられた。

1994年2月の会談決裂の悪夢の再現だけは避けたかったのだろう、事務方中心である程度会談前に、ディールはダンになっていたはずだ。潔癖症故、滅多に握手をすることがない、との評判のT大統領の安倍首相との19秒間にも及ぶ満面の笑みの握手。麻生副総理兼財務大臣、ペンス副大統領のナンバー2同士の新たな経済対話の枠組みまで報じられ、周到さを感じる。

世界貿易機関(WTO)に反する「高関税の適用は、現状念頭に無い」とロス商務長官が明言していることからも、現時点では対日で貿易摩擦に発展する可能性は対中国程高くない。換言すれば、継続的な対円での米ドル安を危惧する段階でもない。今後T政権は、対米赤字では日本と同位のドイツ、全体額の約半分を占める対中国に一旦時間を割くものと思われる。

こうしたなかで、2月9日(木)にはT大統領から「2-3週間以内に税制での驚くべき発表をする」と流れた。2月28日(火)の一般教書演説を意識した発言だろうか。ようやく経済政策への駒を進める時がきた。同時にFRB内でも動きが出てきた。

これらを整理してみると、

2月10日(金)にウォール街では銀行規制に関して、神秘的かつ強力な手腕を発揮してきたことから「オズの魔法使い」と称されるタルーロ理事が退任の意向を表明した。任期2022年1月31日を待たずの退任は、トランプ大統領への書簡にて提出された。これはドット・フランク法(注)廃止へ大統領令で対処したT大統領への抵抗だ。

(注)リーマンショック後に制定された高リスク取引等を制限する金融規制

今後のFRBの金融政策を占う上では、空席が3名に拡大した理事の任命が焦点となりそうだ。既にイエレン(以下Y)議長は2019年末までに年2-3回の利上げがふさわしいと明言していることから、平均時給の伸び率が大幅に低下した1月の米雇用統計の結果も踏まえれば、2月14日(火)、15日(水)(本レポートは2月14日(火)午前執筆、2月17日(金)公開予定)に予定されているY議長の議会証言では、金融政策への質問が続出すると見込まれる。

筆者作成

異例のこの3名の空席理事の任命、T大統領が「イエレン議長を再任せず」と示唆していること、フィッシャー副議長の任期も来年6月までであることから、今後議長を含め実に5名の理事の選任が焦点になる。投票権のある地区連銀総裁は5名、隔年で持ち回り、但し今年は例年に比べハト派が多い。

米景気回復は今月で92カ月目となり、新政権は今後、減税・インフラ投資で更なる経済成長を標榜している。FRB理事の任命は大統領権限内だ。仮にT大統領はじめ政権執行部が本当に米ドル安を指向したいなら、ここに全て徹頭徹尾ハト派の人材をセレクティブに配置すればよい。

景気過熱下で中央銀行執行部内をハト派の巣くつとし、中央銀行の独立性を無視して、場合によったら利下げ圧力をかけるだけだ。マクロ的にみれば支離滅裂な政策だが、米ドル安を演出できる。

さてここにきて、シカゴ連銀のエバンス総裁が、リーマンショック以降に行われた量的緩和で、約4.5兆ドルまで拡大したバランスシート縮小(注)への出口論(広義での更なるテーパリング)に言及した。

(注)この場合、買入れた資産を減らし、徐々に過去の緩和効果を落とすことを意味する。

2013年5月、当時のバーナンキ(以下B)議長が議会証言で、初めて資産買入れの削減に言及した記憶がよみがえる。その後の金利上昇を嫌気し、ダウは最大で6.4%の下落を演じ、「米ドル/円」も103円台より93円台へと10円近く売られてしまった(バーナンキショック)。こうした背景から今後FRBはバランスシート縮小に関しては細心の注意と払ってくるとみられる。

チャート:YJFX!外貨exより筆者作成

景気過熱下での金利引き下げによる米ドル安誘導は、理論的には可能だ。ただその先は、想定を遥かに超える急激な金利の上昇が待ち構えている。上述B氏が買入れ減額に言及しただけで株式市場から投資資金は離散した。そもそも通貨安競争はG7の枠組みからも逸脱している。

以上まとめると、米ドル高牽制が入っても、その政策効果は一時的との見立てだ。好景気末期では緩やかな利上げが継続されるのが、中央銀行の政策判断として極めて真っ当である。米国債はS&Pを除けばムーディーズ、フィッチ共に最高格付けで、そこでの金利正常化(金利上昇)は世界中からの資金回帰を意味し、その結果の米ドル高は資金フロー的に当然の帰結だ。

足元では3月のFOMCでの利上げの可能性は、ほぼ消滅しつつある。「米ドル/円」は、日米10年債金利差と整合的な水準を、ここのところ下回って推移する時間が長かった(相関図)。

筆者作成

3月の利上げの織り込みは進捗しておらず、消去法的に年内3回の米利上げは6月、9月そして12月が濃厚になってきた。「米ドル/円」の上昇にはどうしても米金利の上昇(日米金利差の拡大)が必要だ。年央からの「米ドル/円」の再上昇に向け、今は『忍』の一文字、しばらくは「112-117円」程度のレンジ取引を決め込みたい。

竹内 典弘氏プロフィール

竹内 典弘(たけうち のりひろ)
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して内外の金融機関で為替/金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。 1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。 相場展望をする際、極力恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し、大胆なトレードを日夜行っている。

本記事は2017年2月17日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、竹内典弘氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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