1)「米ドル/円」は1カ月強で、約17円急騰、年内120円が視野に
トランプ大統領誕生をきっかけに力強く上昇を始めた「米ドル/円」のトレンドは12月に入っても変わらず。
前回のスペシャルレポートで「米ドル/円」は早晩115円まで急騰としたが、実際の「米ドル/円」マーケットは115円をもあっさり突破。
(参照:11月18日(金)公開「スペシャルレポート:トランポノミクス相場が本格化~」)
本稿執筆時点では、節目の120円を伺うレベルの118円台で推移。
この相場の起点は、11月9日(水)の米大統領選挙時の安値である101.20円。
本稿執筆時点での高値は118.66円(12月16日(金))。
つまり1カ月強で約17円もの暴騰。
筆者は長期に渡って為替市場に携わっているが「米ドル/円」相場が1カ月強で17円もの急騰を演じる相場は、極めてまれなケースとなる。
特に今年の「米ドル/円」相場は6月のBrexitでの米ドル急落以降、数カ月間100~105円の往来相場が続いていたため、そのスピードの速さに多くの市場参加者も驚きを隠せない展開だったといえる。
つまり次期大統領となるトランプ氏の経済政策・トランポノミクスへの期待感での米ドル上昇というコンセンサスはすぐにマーケット参加者に浸透したが、そのスピード感の認識のずれが「米ドルを買い遅れている参加者」を増加させたことを意味する。
結果、「米ドル/円」が2円程度の押し目を形成する局面では、彼らからの米ドル買い注文がマーケットに投入され値幅的、時間的にも大きな調整もなく「米ドル/円」は続伸してきている。
今年も残りわずかとなったが、これだけ押し目が浅いと、年内120円という大台も現実的になってきた。
ではこの米ドル上昇トレンドは2017年も継続できるのかどうかを検証してみよう。
2)米国の連続利上げと、4%の成長率期待
この米ドル高トレンドを支えているのは、まずは好調な米国経済の持続。
2017年の米国経済に関しては、次期財務長官のスティーブン・ムニューチン氏が、経済成長率を現行のほぼ2倍に引き上げると力強くコメント。
ムニューチン氏:減税で米経済の成長率を2倍にできる-雇用拡大に意欲
トランプ次期米大統領が財務長官への起用を決めたスティーブン・ムニューチン氏は、経済成長率を現行のほぼ2倍に引き上げることを狙った経済政策の概要を明らかにし、税制改革を最優先事項にすることで雇用を拡大する意欲を示した。
ムニューチン氏は30日、商務長官に起用された資産家ウィルバー・ロス氏と米CNBCのインタビューに応じた。ムニューチン氏は法人と中間所得層を対象にした減税、規制緩和、インフラ投資、2国間の貿易協定を通じて米国は3-4%の経済成長を達成できると述べた。2007-09年のリセッション(景気後退)後の拡大局面で、米経済成長率は年率平均2.1%となっている。
ムニューチン氏は「法人税を引き下げることで米国に大量の雇用が戻ってくる」と述べ、「中間層にも大幅減税を実施する。しかし富裕層を対象にした減税は、その財源としての控除縮小によって相殺される」と続けた。
(出所:Bloomberg)
法人税の大幅減税は米国企業の収益を押し上げることとなり、結果として米国株の続伸、同時に日本株の続伸に伴う「米ドル高、円売り」を誘引する。
一方、「米ドル/円」の上昇には日米の金利差も大きな影響を与える。
米金利に関しては、12月14日(水)のFOMC会合後、イエレン議長が2017年の3回の利上げを示唆。今年9月のFOMC会合では、年2回の利上げとされていたため、年3回を示唆したことが米金利の上昇を誘引。
円金利に関しては、過去のレポートで紹介しているように日銀がイールドカーブコントロールの政策で金利の上昇を抑え込んでいるため、結論として、2017年は日米の金利差も更に拡大することが予想され、これも「米ドル/円」の上昇をサポート。
このように2017年の「米ドル/円」を取り巻く環境はポジティブな材料が豊富で、米ドル続伸を示唆している。
3)アベノミクス相場の半値戻しで調整完了、「米ドル/円」はメイントレンドに回帰、2017年は130円も
では、「米ドル/円」の動向をテクニカル分析で検証してみよう。
下図は「米ドル/円」月足でフィボナッチ・リトレースメントを表示。

(筆者作成)
アベノミクス相場の起点が75.35円。
高値が昨年6月に到達した125.86円。
その半値が100.60円。
月足のザラ場では半値(100.60円)を何度も下抜けているが、終値ベースではサポートされている。
つまり、2015年の高値からのアベノミクス相場の調整は50%で終了し、メイントレンドの上昇基調に戻ったといえる。
加えて、筆者がもうひとつ気になっていたチャートが、一目均衡表月足の雲の位置。
10月のスペシャルレポートの通り、個人的には「米ドル/円」は10月の日銀金融政策決定会合以降、109円への反発が始まっていると想定していた。しかし月足の一目均衡表では、分厚い雲が先に待ち構えていた。
そこで、この月足の雲への突入をさけるためには、11~12月の「米ドル/円」は雲に沿って秩序だった上昇をする必要がある。そうでなければ、10円以上の暴騰をする以外に雲への突入を避けることができないからである。

(筆者作成)
結果、11月の「米ドル/円」は、歴史に残る暴騰を演じ、この月足の厚い雲を急上昇して回避。
2015年の高値から調整の動きとなった2016年は、これで調整を終えて上昇トレンドに回帰している。
中期での米ドル高トレンドの目処はまず、フィボナッチの全戻しである2015年の125円。
さらに株価の上昇を伴えば130円も十分に視野に入ってくる。
ただ、1カ月強で17円もの急騰が今後も続くわけではないので、来年初頭に一度反落する可能性も考慮する必要もある。しかし、これは調整の域を出ず、「米ドル/円」の上昇トレンドは変わらないと考える。
2017年は130円に向けて上昇トレンドに回帰した「米ドル/円」の行方に注目したい。
西原 宏一氏プロフィール

- 西原 宏一(にしはら こういち)
- 大手米系銀行のシティバンク東京支店にて為替部門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャパンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交流が深い。