スペシャル・トレンドレポート

イタリア銀行問題などで、 さらなるユーロ安へ!(松崎 美子氏)

2016年12月14日

12月4日(日)に実施された「イタリア国民投票」が否決され、マーケットは「イタリア」にフォーカスし始めた。ある米銀によると、「2016年のマーケットの大惨事は、Brexit(英国のEU離脱)ではなく、イタリア銀行問題だ!」というレポートを出しているそうで、非常に気になっている。

今回のレポートでは、「イタリア国民投票」後の動きと、先週開催された欧州中銀(ECB)金融政策理事会からの発表内容について考えてみたい。

欧州中銀(ECB)金融政策理事会での決定

順序が逆になってしまうが、最初に欧州中銀(ECB)金融政策理事会の発表内容を簡単に振り返ってみたい。

▼政策金利

  • デポジット金利:-0.4%
  • レフィ金利:0%
  • 貸出金利:+0.25%

⇒全て据え置き

出典:欧州中銀(ECB)金融政策理事会の決定内容

▼非標準的措置の変更内容とマーケットの反応

次に、国債や社債の購入を含む量的緩和策(QE)の内容変更は、以下の通りである。

マーケットの反応を見ると、ユーロ買い材料 1に対し、売り材料 3となり、ユーロは下落。

▼マクロ経済予想(スタッフ予想)

今月の欧州中銀(ECB)金融政策理事会では、3カ月に一度のマクロ経済予想である「スタッフ予想」も発表された。それを見て気になったのは、2年後のインフレ率見通し(チャートの点線の丸部分)が、欧州中銀(ECB)のインフレ目標「2%に限りなく近いけど2%以下」より低い1.7%となっていた点だ。

この数字が少なくとも1.9%くらいにならない限り、欧州中銀(ECB)による追加緩和観測は消えず、ユーロ安の要因になり得る。

データ:ECBスタッフ予想

総合すると、欧州中銀(ECB)金融政策理事会はQE月額の減額以外、ハト派的内容が多かったことを受け、ユーロ安の動きが優勢となった。

イタリア銀行問題

欧州中銀(ECB)金融政策理事会の4日前にイタリアで実施された憲法改正の是非を問う国民投票。結果は、「賛成:40.89%」対「反対:59.11%」となり否決された。

この結果を受け、イタリアではいくつかの動きがあった。

▼レンツィ首相辞任、新首相任命

レンツィ前首相は否決となった場合、自分は辞任すると約束しており、その約束は守られた。ただし、2017年度予算案の成立が滞っていたことを受け、マッタレッラ大統領は前首相の辞任を数日引き伸ばし、週明け12月12日(月)に正式に元外務相であるジェンティローニ氏を首相に任命。今週末には内閣信任投票が実施される運びである。

過去5年で5人目の首相誕生となるが、今までイタリア新政権誕生までには、かなりの時間がかかった。しかし、今回は相当のスピード決定となっている。その背景にあるのが、銀行問題である。

▼イタリア銀行問題

国民投票後、本来であれば「政治危機」となるべきイタリアで、「銀行危機」が騒がれている。イタリアには信用組合を含めると、550以上の金融機関があるそうで、彼らが抱える不良債権額は、3,500~3,600億ユーロ(約44兆円)に達し、この数字はイタリアGDPの20%に相当する。

イタリアの銀行の不良債権比率が飛びぬけて高いことを証明するには、今年3月末に欧州銀行 監督機構(EBA)が発表したデータが最適であろう。それによると、同国の不良債権比率は 16.6%となっていて、ドイツ3.1%、フランス4%、英国2.3%と比較しても、相当の高水準となっているのが判る。

そこにきて、イタリアは国家の債務状況も良くない。これは日本の財務省がまとめた「公的債務残高の対GDP比」であるが、日本を除くと、イタリアはギリシャの次に良くない数字である。

▼モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行(MPS)がターゲットに

数多いイタリアの銀行の中でも、特に問題視されているのが、世界最古のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行(以下、MPS)である。同行の不良債権比率は、40%にのぼるといわれていて、今年12月31日(土)までに50億ユーロの資本増強が必要となっている。

12月4日(日)の国民投票が否決され、MPS株が売られる中、同行救済目的で集まったコンソーシアムは、カタールなどの民間部門からの支援を模索した。しかし、どこからもいい返事が得られず急遽、欧州中銀(ECB)へ資本増強期限の延長を申し出たのである。

だが、驚いたことに、欧州中銀(ECB)はその要請を拒否。そのため、イタリア政府による公的資金注入は避けられない状況となってきた。

▼EU銀行再建・破綻処理指令が邪魔に・・・

「公的資金注入で、ひとまず乗り切ろう!」、その掛け声が無駄になるかもしれない事態が起きている。それは、ギリシャ危機が発覚した時に公的資金に頼りすぎたことを反省し、現在のEUでは、銀行再建や破綻処理に、一定のルールが設けられている。それが、「Bank Recovery and Resolution Directive (BRRD) 銀行再建・破綻処理指令」という規制であり、皮肉にも今年1月1日(金)より施行された。

ここでは、銀行救済時の手段として、「べイル・アウト(公的資金による救済)」 ではなく、ベイル・イン(株主・債権保有者・預金者などによる銀行再編コスト負担共有)を導入すべきと決定されている。

しかし、イタリア政府はなにが何でも公的資金注入を断行するつもりだ。

そんなことが可能なのか?実はひとつだけ抜け道がある。それが、「例外条項」だ。

銀行再建・破綻処理指令(BRRD)32条4項には「予備的資本増強(precautionary recapitalisation)」という項目があり、 「金融市場の安定を損なう システミック・リスク が高い場合 、ベイル・インではなく 公的資金注入が可能」と規定されている。イタリア政府はこの例外条項にそって、公的資金を注入するつもりである。

ただし、もうひとつ落とし穴があり、今年7月に欧州最高裁は、イタリア銀行へ予備的資本増強で公的資金を注入する場合、劣後債などは例外とし、債権者による負担を言い渡したのである。そうなると、どうしても債権者負担は避けられないだろう。

この問題はまだまだ先が見えず、来年早々新たな欧州危機の発覚を指摘するエコノミストが出てきた。さらに心配なのは、イタリア政府は来年2月にも解散・総選挙を行う準備をしているという噂である。確認は取れないが、もしそういう動きとなれば、来年の欧州はかなり政治色の強い1年となるだろう。

システミック・リスク=一つの金融機関の支払不能や決済不履行などで、他の金融機関など金融システム全体に波及するリスクのこと

ここからの「ユーロ/米ドル」

来年1月20日(金)にトランプ米大統領が就任してからの不透明感が気になるが、現在の予想通り、アメリカ経済が順調に滑り出すのであれば、米ドル高への道が開かれるのかもしれない。

それに対し、欧州は「2017年は欧州選挙年」となり、いろいろな意味でマーケットの関心が集まりやすいし、乱高下は覚悟しておきたい。

上記チャートは、「ユーロ/米ドル」の月足であるため、かなり長期的予想となってしまうが、今後戻りが1.08-1.10ドル台(チャート上の黄色いハイライト)を上に抜けない限り、最初のターゲットは1.0460ドル台。そこを下抜けすれば、1.02ドル台から1.0000(パリティー)ドルを狙う動きとなると予想している。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2016年12月14日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
記事の内容は、松崎美子氏の個人的な見解かつ、掲載当日のものになるため、今後の見通しについての結果や情報の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。また、記事内のデータは、あくまでも過去の実績であり、将来の市場環境の変動などを保証するものではありません。
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