スペシャル・トレンドレポート

英国の完全独立国家に向け課題と英ポンド動向(松崎 美子氏)

2016年10月6日

10月2日(日)、この日から3日間に渡り、英国議会の与党:保守党が年次党大会を開催するタイミングにあわせ、メイ首相は重要なメッセージを2つ、国民に送った。

ひとつは、EU離脱交渉を正式に始めるため、EU基本条約(リスボン条約)50条の行使時期。そしてもうひとつは、EU離脱後、完全な独立国家として、主権をEUから取り戻す決意であった。

リスボン条約50条行使時期

メイ首相は、EU基本条約(リスボン条約)50条の行使時期を、2017年第1四半期(3月末)までに行うと明言した。

それ以前から、来年1~2月に行使という噂が流れていたので、それほど驚きではないが、一部の報道では来年秋のドイツ国政選挙直前に行使する可能性も指摘されていただけに、3月末までという具体的な期限が見えてきたことで、一番大きな不透明感が払拭された。

完全なる独立国家となる決意

英国は1973年にEC(欧州共同体)に加盟する際、『欧州共同体加盟法案:Great Repeal Bill』を採択した。これは、法律によっては、英国法ではなく、『欧州共同体加盟法(1972年)』が適用されることを意味する。つまり、場合によっては、 英国最高裁の判決より 欧州最高裁の判決が 優先されることを意味する。

メイ政権は、EU離脱後、英国連合王国が完全なソブリン国(Sovereign United Kingdom)として国家主権をEUから取り戻すため、来年5月に予定されているエリザベス女王の施政方針演説に、『欧州共同体加盟法案:Great Repeal Bill』からの撤退案を組み入れ、議会で審議することとなった。

どうして「英ポンド」は売られたのか?

リスボン条約50条の行使時期がはっきりしたことで、一番大きな不透明感が払拭された。しかし、週明け月曜日の為替市場での「英ポンド/米ドル」相場は、それを好感して買われるどころか、1.28ドル台へ急落した。これは、どうしてなのか?

その疑問を紐解く鍵が、『欧州共同体加盟法案:Great Repeal Bill』からの撤退に隠れている。

この撤退が実現し、英国が完全独立国家としてEUから抜ければ、当然シングル・マーケット(EU単一市場)へのアクセスを放棄したものと受け止められる。今回のBrexit劇でのキーワードが、「シングル・マーケットと移民」であり、ここへのアクセスがあるのと、ないのとでは、英国の将来が大きく変わってくる。現在のところ、アクセスがあるBrexitを「ソフトBrexit」、アクセスがなくなることを「ハードBrexit」と呼んでいる。

シングル・マーケットでは、4つの自由「カネ・モノ・人・サービス」が保証されているため、ハードBrexitを選択した場合、「ロンドン金融街:シティ」から金融サービスが出来なくなることを意味している。

英国政府もそれは十分に理解しているため、何らかの手段を使い、「ロンドン金融街:シティ」の存続に向け努力することは間違いない。実際に、ロンドン新市長はロンドンで働く人に対して、特別労働ビザを発行する案を提出し、英国議会も前向きに検討しているというニュースが伝わってきている。

スコットランド自治政府首相の怒り

メイ首相は、リスボン条約50条の行使時期をはっきりさせ、英国が国家主権を取り戻すことを国民に語りかけたが、これを聞いて「冗談じゃない!」と公式に抗議したのが、スコットランドのスタージョン自治政府首相であった。

スコットランドは国民投票でも残留票が多く、特にシングル・マーケットへのアクセス権を保留したい気持ちが飛びぬけて高い。メイ首相の口から、突如として『欧州共同体加盟法案:Great Repeal Bill』からの撤退の意向が飛び出した時、スタージョン首相は自分の耳を疑ったそうだ。

既にメイ政権は、

  1. 1.
    2度目の国民投票は、ない
  2. 2.
    解散総選挙は、ない
  3. 3.
    英国議会は、国民投票結果を尊重する
  4. 4.
    EUとの離脱交渉では、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの意見を聞きながら、調整する
  5. 5.
    ただし、EUとの交渉を担当するのは、英国連合王国を代表して英国議会が進める。

以上5点を明確にしており、スコットランド政府の意向があまり反映されておらず、いつどんな反撃に出てくるか分からないだけに、対EUとの交渉だけでなく、国内の意見の対立も表面化するのは時間の問題かもしれない。

ここからのマーケット

主要通貨の実効レートを毎日チェックしているが、どの通貨も煮詰まった動きとなってきた。一番ひどいのはユーロで、3月から狭いレンジにすっぽり入ったまま、ビクともしない。

その点、英ポンドは今年の最弱通貨なだけに、6月のBrexit決定以降、大きく動いた。しかし、夏以降のチャートは逆三尊の形に似てきていて、右肩を形成しているようにも見える。

今月に入り、Brexitに向け英国政府が動きだしたことを考慮すると、更に悪い材料が出てくれば、逆三尊が失敗に終わり、最安値の76.8787を下抜ける下落も十分に考えられる。

実際に「英ポンド/米ドル」のチャート(4時間足)にベガス・トンネル(144/169EMA)を載せてみると、現在トンネルの下の2番目の波のレベルでの推移となっているのが判る。過去の値動きを調べると、下2番目の波は強いサポート・レベルになっている(オレンジの丸部分)。最近の「英ポンド/米ドル」も、下2番目の波で2回サポートされ、今週に入ってそのサポートを抜けかけている。

この原稿執筆時点での下2番目の波のレベルは、1.2868ドル。終値ベースでここが下抜けると、次のターゲットとして、下3番目の波(チャート上のピンク★レベル)が通る1.2724ドルを意識したいと考えている。

松崎 美子氏プロフィール

松崎 美子(まつざき よしこ)
東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。

本記事は2016年10月6日に掲載されたもので、情報提供のみを目的としております。
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